向かい風を行く 80

最終章

「だけど、ノンケと付き合ってくのはしんどいぞ? 
男にも女にもヤキモチ焼かなきゃならないし。
お前みたいに独占欲強い奴、それこそマジで地獄だぞ」
「……榊原さん」
「だから、俺にしとけば楽させてやれたのに」
 
甲斐への未練をあからさまに口にされ、甲斐も美貴も一瞬顔を強ばらせた。
口調は、いつも雑談の延長のようだった。
だが、柔和な微笑みを封印し、
甲斐に一瞥をくれた榊原の眼差しは陰鬱に陰っていた。
美貴は思わず顔を伏せ、ぎゅっと肩をすくませる。
返す言葉を探しても、頭の中は真っ白だ。

榊原の言い分は最もだ。
いつか自分の存在が甲斐を二重にも三重にも苦しめる日が、きっと来る。
だから甲斐は、最後まであんなにも自分を拒絶した。
それを押し切ったのは五歳も年上の、他ならない自分の方だった。
うつむいて口を噤み、
部屋の中の張りつめた空気の圧に美貴はじっと耐えていた。

そんな美貴の葛藤を宥めるように、強ばった両肩に甲斐が再び手をかける。
「ノンケとかゲイだからって選り分けると、ヨシキさんに怒られますよ。榊原さん。
この人、愛想もいいけど、怒ると本当に恐いんです」
苦笑混じりに言いながら美貴の前髪のクリップを外し、指で手早く撫でつけた。

「それに、ヨシキさんと付き合えるなら、苦しんでもいいですよ。
俺、ヨシキさんに会うまでは、やっぱり相手もゲイの方が気楽だし。
絶対ノンケとなんて付き合えないって、ずっと思ってましたけど」
「甲斐……」
「もう、楽しようと思ってないです。ヨシキさんが好きだから。俺なりに堪えていきますよ。
不安になったり焦ったり、どうしてもわかり合えなくて、
悲しくなったりするかもしれないですけれど」

静かな決意をたたえた声音で淡々と語り、
鏡に映った甲斐の口元に柔らかな笑みが浮かんでいた。
肩に置かれた掌から甲斐の体温が流れ込み、
身体の力もいつのまにか抜けていた。

「それに、この人も結構しぶといから」
「お前は、すぐに諦めるけどな」
最後に一言つけ加えてきた甲斐を見上げて応酬する。
すると、間髪入れずに榊原にストップをかけられる。
「わかった、わかった。俺もこう見えてしつこい方だから。覚悟しとけよ? 二人とも」
声高に宣戦布告を済ませた後、
美貴の肌質に合わせてコンシーラーやパウダーやアイブロウ、チークなどを選び始める。


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舞台は京都。お香屋さんの一人息子(大学生)が主人公。
特殊な五感の少年と、チャラ男刑事の間で主人公が揺れまどう話です。
一応ピュアラブで、なんかほのぼの。
だけど、次々事件が起きるサスペンスタッチ。いつものようにいろんな意味でごった煮のBLです。
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向かい風を行く 79

最終章

「あのさ……。あれからあの噂ってどんな感じ? 
甲斐は俺には気にするなとしか言わないけど」
続いて美貴の顔全体にクリームのようなものを塗りたくり、
榊原は思案気に顔色を曇らせた。

「大丈夫ですよ。もう表立っては皆、何も言いません。
それに手筒花火の本番で、あの甲斐を見ちゃったら、誰も何も言えないですよ」
「そっかー。やっぱり俺も見たかったなあ、それ」
「来年もやりますから。来年はぜひ、来て下さいよ。待ってます」
「そうだね。来年は行こうかな」
 
険しかった眉をほどき、肩の荷が下りたように安堵の色を顔中に滲ませた。
榊原は本当に甲斐を案じていて、心から大切に思っている。
その混じりけのないまっすぐな甲斐への思いがひしひしと感じられ、
美貴は少し切なくなる。
だから、『肌の血色を良くするため』のマッサージで、
顔の筋肉を豪快に引っ張られたり揉まれたり、とんでもない変顔にされようと、
文句も言わずに堪え抜いた。
最後に蒸しタオルでマッサージクリームを拭き取られ、
自分の方がひと仕事終えたような気分になる。

と、そこへ甲斐がメイク室に戻って来て、榊原にプリントを手渡した。
「今日の先生のスケジュール。ちょっと変更があったそうです」
「変更? なに、またモデル同士で揉めてんの?」
「いえ、今日は先生が来てるなら、ヘアメイクの担当は先生にって、
ごねたモデルがいたみたいです」
「ごねられたって、こっちだって分単位でやってんだぞ」
甲斐は榊原と額を付き合わせ、小声で打ち合せを済ませた後、
ハリウッドミラーの前に座る美貴を覗き込んできた。
「ヨシキさん。何か飲みますか? 腹減ってるなら、サンドイッチとかも出せますけど」
「腹は減ってねえけど、コーヒーくれる?」
「わかりました」
鏡に映る美貴に微笑みかけて頷いた。

だが、コーヒーを入れにいくのかと思いきや、
クリップで前髪を止められた美貴を眺めて双眸を細め、
美貴の両肩に手を置いた。
「おでこ、丸出しで可愛いですね」
「バーカ。さっさとコーヒー入れてこい」
頬を寄せて囁かれ、美貴はみぞおちに肘鉄を食らわせた。
自分でも間抜け面を晒しているのが恥ずかしいと思っていたのに、
わざとそこを突いてくる。
嫌な奴だと、ニヤつく甲斐を手の甲で追い払い、美貴は鏡に向き直る。

だが、傍らにいた榊原にも聞かれてしまっていたらしい。
「お前でもそんな顔するんだな」
しみじみとした声で呟かれ、美貴も甲斐もハッとした。


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向かい風を行く 78

最終章

「こいつ、結構嫉妬深いから大変だよ。ふらふらしてると、そのうち監禁されるかも」
甲斐は慌てて榊原を制したが、榊原は構わず甲斐をからかった。
iかなり前から榊原にだけはゲイだと打ち明け、榊原には自分達の話もしたいと、
美貴も甲斐に言われていた。
甲斐がそうしたいというのなら、断る理由は何もない。
甲斐は榊原から付き合ってくれと告白され、交際自体は断ったものの、
師弟関係も気の置けない関係も、継続しているようだった。

甲斐に腹を割って話せる相手がいるのは喜ばしいことのはずなのに。
甲斐が自分より榊原と話している時の方が楽しげで、
おもしろくないと美貴は思ってしまう。

「……にしても、ミキ君。本当に肌が綺麗だなあ。毛穴なんか見えないじゃん」
榊原は甲斐がヤキモキするのを楽しむように美貴の頬を撫で擦り、
鏡越しにちらりと甲斐を窺った。
榊原は、感情を剥き出しにする甲斐も可愛くて仕方がないといった顔つきだ。
自分をダシにして、いちゃついてるのは完全に榊原と甲斐の方だ。
後で甲斐に説教してやると、美貴が内心むくれていると、
廊下からドアをノックされ、スタッフらしき女性に甲斐が呼び出され、部屋を出る。

「甲斐もそこそこやれてるみたいですね」
美貴は後ろ手にドアを閉める甲斐を目で追った。
その呟きに応えるように、榊原がにっこり微笑んだ。
「よく気がつくし、礼儀正しいし。腕もいいから助かるよ」
榊原はメイクの前に肌に水分補給すると言い、美貴の顔に機械で水蒸気を
あて始める。
「それに、あのルックスだし。アシスタントが甲斐の日の撮影だと、
モデルの女の子達もはりきってセクシーポーズ、ばんばん取ってくれるから。
いい写真撮れるって、カメラマンも編集も喜んでる」
「……その情報、別に要りません」
「そうだよねえ」

鏡に映る榊原は相変わらず食えない笑顔のままだった。
目鼻立ちのすっきり整った、悔しいぐらいのイケメンだ。
無造作風に計算され、整えられた前髪からちらりと覗く双眸は、
目尻が少し垂れていて、滴るようなフェロモンを放っている。

恋仇に平然と喧嘩を売りながら、そのくせ決して険悪モードには持ち込まない。
こんな恋愛慣れした百戦錬磨の榊原に、
自分なんかが太刀打ちできるはずがない。 
ここは大人しく榊原のオモチャにされておこうと腹を決め、
美貴は肩で息を吐く。

本当は甲斐の仕事ぶりが見たくなり、引き受けてしまった代役だ。
想像以上にテキパキしている甲斐の姿を脳裏に浮かべ、思わず頬を緩めると、
榊原が伏し目がちに呟いた。


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向かい風を行く 77

最終章

手筒花火の祭りのあと、
しばらくして、美貴は榊原に頼まれて、フォトスタジオを訪ねていた。
その日は榊原がヘアメイクを担当しているメンズ雑誌の撮影日らしい。
それなのに、読者モデルが病欠になってしまったと、
榊原から早朝に電話が掛かってきた。

『せっかくの週末なのに、呼び出したりして申し訳ないんだけど。
もし、予定がなければ午前中だけ頼めないかな』
「予定はないんで、時間は大丈夫ですよ。
でも、俺みたいな童顔のチビがモデルさんの代役なんて」
と、美貴は速効で辞退した。
 
しかし、その日は『メンズメイク』の撮影日であり、
バストショットしか撮らないからと、さらに畳みかけられる。
最後は他ならぬ榊原の依頼だとして、渋々承諾したものの、
榊原と一緒に控えのメイク室で待っていた甲斐はあからさまに不機嫌だ。

「俺だって、モデルなんて図々しいって思ってるよ。だけど、しょうがねえだろ。
榊原さんに困ってるって言われたら」
甲斐にハリウッドミラーの前に座らされながら、美貴は憮然と言い放つ。
「どうせ、お前だって榊原さんに頼まれたんだろ? なのに、断ったんじゃねえのかよ」
「断りました」
「ほら、みろ。結局、お前がやらねえからだろ」
 
顔モデルなら、自分などより甲斐の方が、
断然絵になることぐらいわかっている。
「別にヨシキさんが不満だなんて、言ってないじゃないですか」
甲斐は榊原のアシスタントとしてメイクボックスを開いたり、
ドライヤーやおしぼりなどを用意しながら反論した。

「ヨシキさんは正直、今日来る予定だったモデルさんより綺麗だって、
雑誌の編集者さんも喜んでますからね」
「何だ、急にゴマスリやがって」
美貴が横目で甲斐を睨みつけると、背後で榊原が苦笑した。
「……っていうか、甲斐は他の男がミキ君に触るの、イヤなだけだって。
バストショット撮影でも、トップスの着替えはこっちで用意してあるし。
若くて美人のスタイリストにベタベタされるんじゃないかって、
拗ねてるんだよ。そうだろ? なあ、甲斐」
「榊原さん」


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向かい風を行く 76(R18)

第七章

「甲斐……、あっ! あ、あっ……」
浅く深く少しずつ官能を高めるように追い上げられ、敏感なそこを穿たれる。
美貴は仔犬のように喉を鳴らし、あられもないよがり声を張り上げる。
自分でも自分の声で感じている。
強靭に腰を打ちつける甲斐の律動も激しくなる。
だからもう、されるがままに声を上げ、かぶりを振って身悶える。
送り込まれる抽挿に歓喜して、シーツを固く握り込む。
卑猥な声がとめどなく溢れ出る。
媚びを含んだ嬌声で、男の欲を煽ってしまう。

「……っふ、あっ、……ああ、そこ」
そこ、いいと、口走りながらビクリと背中を弾ませる。
汗濡れた髪をふり乱す。
感じるそこに充溢の切っ先を押し当てられ、そのまま小刻みに揺らされ、
涙も声も止まらない。
嵐のように呼吸が荒び、喘ぐ息は焔のように熱かった。
自分の息で喉が焼けるかと思うほど。

「あっ、甲斐。あ……、あっ」
鮮烈すぎる快感に身震いしながら甲斐を呼ぶ。
直後に応えるようにキスされた。

「ヨシキ、……ヨシキさん」
「んっ、……んんっ、あっ、あっ」
口腔を荒れ狂う犬のようにぐちゃぐちゃに舌で掻き回すだけ掻き回し、
突き放すように去っていく。
かろうじて呼吸を紡ぐ間にも乳首を吸われ、ねぶられて、
息も鼓動も跳ね上がる。
喉の奥からひっきりなしに絞り出される嬌声は蜜のように甘かった。
 
互いにそうすることでしか伝えきれない熱情を伝え合うため、
互いの肌を撫でさすり、抱きしめ合って口づける。
頭にも心の中にも響いているのは甲斐の荒い息だけだ。
穏やかだった抜き挿しが、獰猛な突き上げになって前立腺裏を穿ちつけ、
奥の奥まで掻き乱す。

「あっ! ……、イク! ダメ、も、あっ、あ……っ」
悲鳴のように叫んでも、聞き入れられず揺さぶられ、背を弓なりにしならせる。
これ以上ないほど全身が収縮し、強ばって痙攣し、内奥の甲斐を締めつける。
美貴は甲斐にしがみつき、白いような光の中で極めていた。
甲斐もまた短く低く唸った後、美貴の腰を鷲掴みにして引き寄せる。
最後に激しい突き上げが来て、美貴は顎を突き上げた。
そのまま二度、三度、止まない吐精をくり返し、
甲斐もまた天を仰ぎ、美貴の最奥で射精した。


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プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

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