「ホワイトナイト」
第十章

ホワイトナイト82

 ←ホワイトナイト81 →ホワイトナイト83
 彦坂旅館から中仙道の坂道を車でさらに数分登った高台に、陽介が自宅を構えるマンションがある。 
 豊かな緑に溶け合うようなクリームベージュの落ち着いた外壁。エントランスの高い天井には豪奢なクリスタルのシャンデリア。市松模様のタイルの床に大理石の壁と柱。墨色の革張りソファに美濃和紙のランプシェード。
 洗練された和の趣で統一されたエントランスを陽介とともに足早に抜け、エレベーターに乗った後、最上階のワンフロアへ辿りつく。

「入れよ。どうせ俺しかいないし、気兼ねする必要ねえから」
 と、茶褐色のドアを押し開けて、猛を中へと促しながら陽介は憮然としたままだ。 
 シルバーフレームの眼鏡の奥で、冷ややかに眇められた双眸といい、いかにも渋々案内をされ、猛は肩身を狭くした。勢い込んで呼び止めたものの、陽介がまだ昨日の非礼を怒っているのは明らかだった。 

 とにかくそのことだけでも謝罪して、今日は早々に失礼しよう。猛は中には入らず、玄関先で申し出た。        
「あの。……こんな時間にご迷惑だと思いますので、ここでいいです。ちょっと話ができればいいんで」
「玄関なんかじゃ、まともに話もできねえだろう。いいから上がれよ」        
「……失礼します」                 
 猛はしょんぼりしながら玄関フロアで靴を脱ぎ、陽介に続いて廊下を進むと、突き当たりのリビングまで来る。十年振りに再会して既に一年近く経っているのに、陽介のプライベートに足を踏み入れるのは初めてだった。

 温かみのある木の床に延べられた幾何学模様のカーペット。
 飴色に艶めく木製家具とオフホワイトのソファセット。梁天井に吊された乳濁色のシャンデリア。小豆色の時代箪笥に金箔屏風に置きランプという和洋折衷のしつらえは、外国人のジャポニズム趣味を思わせた。   

 艶やかな空間のそこかしこに陽介らしい色香が漂い、鼓動がどんどん忙しなくなる。天井まである一面の窓からは、木曽山脈の稜線と街の夜景を一望にすることができた。
「何か食うか?」
 リビングとひと続きの対面キッチンから陽介に訊ねられ、猛はハッとして振り返る。しかし、もとより長居をするつもりはない。 
「いえ、すぐに失礼しますから。本当に、どうぞお気遣いなく」  
 猛が笑顔で辞した途端、思いがけなく剣呑な声で返される。         
「なんだ。俺とはもう、飯も食いたくねえか」    
「……えっ?」
「で、……? 用件は?」




にほんブログ村 BL小説
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【ホワイトナイト81】へ  【ホワイトナイト83】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【ホワイトナイト81】へ
  • 【ホワイトナイト83】へ