「ホワイトナイト」
第九章

ホワイトナイト80

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「我が社の技術や製品に企業価値を見出だして頂いているのであれば、何も多額の資金を投入してまで我が社を買収しなくてもですね。共同開発や製造委託といった形で営業の一部を相互に促進しあう業務提携でも、充分可能ではないかと」
「しかし、業務提携では、御社の人事や経営に口を挟む権利は得られませんので」       

 陽介は薄笑いを浮かべて徳利を持ち、目の前の専務を促した。 
 反射的に猪口を差し出す専務の両手が小刻みに震え、徳利と猪口の擦れる音が生々しいほど耳に響いた。

「私がTOBで得たいのは、御社の技術力や製品じゃありません。それをご理解頂きたい」 
 続いて会長に徳利を差し出すも、彼は猪口を取り上げなかった。恨みがましい目で睨み据えるだけの老人を、陽介は哀れむように目を細めて見る。陽介の背後の金襖が天井灯の光を浴びて、刀のように閃いていた。       

「私の起業理念は、物と人と顧客の流動的な循環を実現させるというものです。金や人の流れを百八十度覆し、自身の思惑ひとつで妨げてくる独裁者の存在は、地域経済の流動性を阻む堰でしかない」    
 陽介は自身の猪口を表に返し、手酌で酒を注ごうとする。慌てて猛が手近な徳利を取り上げて、上目使いに伺い見ると、陽介が黙って杯を差し出してくる。初めて陽介に酌をする猛の手も、また別の意味で可憐に震えた。

「芹沢会長。私はあなたに何の遺恨もない。けれども、あなたが私の理念の実現を阻む楔であるなら、私はあなたを排斥しなければならない」    
「排斥……」              
 芹沢会長は自嘲のように呟いた。やがて疲れたように目を閉じて、小さく頷会長を陽介は身動ぎもせずに見つめ続けた。
「私の目的はあくまで御社を買収し、吸収合併した上で、現経営陣全員の退陣要求を行なうことです。経営陣の保身のための業務提携などではない」        

 陽介は猛に注がれた酒を一気に飲み干し、杯を置く。 
 そしてそのまま座敷を出ていく陽介を、呼び止める者はいなかった。猛もまた、一瞬腰を浮かせただけで、引き止めることはできずにいた。




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