「ホワイトナイト」
第一章

ホワイトナイト7

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何はともあれ、記名捺印した契約書を陽介の事務所に持ちこんでからというもの、陽介とは何度も話し合ってきた。

 旅館の営業方針を、家族や団体客から個人客向けに転換すること。   
 彦坂旅館の十二畳間が主流だった客室も改め、六畳間の個室を増やした上で、さらに外国人観光客向けの洋室もあつらえた。 その際、本館だけはバリアフリーにリフォームも行い、車椅子の昇降が可能な送迎バスも購入した。それらの莫大な改築費用も銀行などへの借金ではなく、陽介の提案で『少人数私募債』という社債を発行することで用立てている。         

 『少人数私募債』は私募債であるため、債権の購入者は経営者である猛の身内や従業員、または取引先に限られる。
 そのため、不特定多数の人間に旅館の債権が譲渡され、突然旅館が乗っ取られてしまう心配がない上に、銀行の金利より安く金利が設定できるメリットもある。そして、その私募債のほとんどを購入してくれたのも陽介だった。  

「ポケットマネーだ。心配するな」
 と、いつもの調子でうそぶかれ、
「お前んとこの旅館が儲かれば、利息と債権の両方の値上がりで、債権者の俺も当然儲かる。俺は俺のために働くんだ」
 などと、臆面もなく告げられた時は、さすがに鼻白んだものだった。 

 どこまで本気で言っているのか。 
 猛自身判別できない時もあったが、全面改装は先月の九月にようやく終了。その後、息つく間もなく陽介に要求されたのは、彦坂旅館が開催するイベント込みでの宿泊プランの設定だ。 

 江戸時代の宿場町の面影を色濃く残した古民家の二階。
 ファンドという無機質な業務内容とは裏腹に、陽介のオフィスの社長室は白漆喰壁に黒光りする太い梁を何本も渡した高い天井。梁から吊り下げられたランプのシェードは美濃和紙だ。
 街道沿いに設けられた腰高窓の千本格子や、黒褐色の板間の床。
 凛とした静寂に包まれた空間で、猛はその日も応接セットに座らされ、陽介と顔を付き合わせていた。

「イベントも旅館自身で企画して開催すれば、旅行会社にマージン払わずに済む分、料金も安く設定できる。客には観光に来たいんじゃなくて、彦坂旅館に来たいって思わせなきゃ泊まってもらえねえんだし」           
 里山の風情を残した旧正月や雛祭りなどの伝統行事。
 春の花見や山菜取り、夏の花火や蛍鑑賞、秋の紅葉狩りなど、四季折々の行楽に絡めたイベントを成井ファンドと共同で企画し、それらのイベントにかかる諸費用や手数料込みでの宿泊プランを打ち出すよう、陽介は猛に指示してきた。

「そりゃあ、呼び水になるなら旅館が自分達で企画するイベントなんかもアリですよ。でも、旅行会社も通さずに、どうやって集客するんですか」         
 猛はすぐに眉間を曇らせ、陽介に訊ねた。  
「それぐらいの宣伝ツールは俺んとこの会社が持ってる。企画と宣伝にかかる経費は契約の範疇だから、お前に請求しねえから」 猛の牽制球を難なくかわし、陽介が自ら提案してきたイベント企画が『新酒の利き酒会』だ。 




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