「ホワイトナイト」
第九章

ホワイトナイト78

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 黒塗りの板塀に囲まれた料亭の一室で、猛は周囲の誰とも目を合わせずに、角卓に用意された先付ばかりを眺めていた。 
 猛の正面には芹沢製薬の会長が、その隣には初老の専務が堅い顔で座している。

 数年ぶりに再会した会長は、猛がよく知っている笑い皺を目尻に刻んだ翁ではなく、頬が痩け、窪んだ目の下にクマを作った陰欝な老人と化してした。 
 しかし、回廊を渡って近づいてくる足音が凍るような沈黙を破り、角卓を囲んだ三人が一斉に廊下に目を向ける。
「お待たせして申し訳ございません」
 案内役の女中が襖を開けた後、敷居の前で陽介がぎこちなく頭を下げる。
 濃紺のスリーピースにブルーのネクタイ。今日もまたシルバーフレームの華奢な眼鏡をかけていた。眼鏡をしている陽介の顔はよく似た他人のように違和感と距離を感じさせ、猛を落ち着きなくさせる。

 陽介はひとつだけ空いていた猛の隣に目を落とし、無言で猛に目礼すると、腰を下ろして端座した。
陽介をいわゆる『そういう意味』で意識するようになって初めて会ったせいか、切なくなるほど鼓動が高鳴り、すぐには言葉が出てこない。
 しかも、芹沢製薬の専務に電話口で泣きつかれ、内々の会談を陽介の事務所に打診したのは昨日の夕方。自分が仲介したとはいえ、まさか本当に足を運んでもらえるとは思っていなかった。

「今日は無理を言って、すみませんでした。成井社長」
 猛はおずおず小声で礼を述べた。
 しかし、陽介は伏し目に会釈を返しただけで、猛を見ようとしなかった。

 やはり『他人の会社を乗っ取った謀略者』呼ばわりしたことを、陽介は怒っているのだろう。視界に入れたくないほど嫌われたのだと、猛は下唇を噛みしめる。と、その時、陽介の手がそっと背中に触れてきた。    
「大丈夫だ。お前は黙って座ってればいい」
「陽介さん……」                          
 それでも、こういう場所に慣れない自分を気遣ってくれる。 
 猛は端正な横顔を凝視したまま、熱く胸を震わせていた。       
 これからどんな話し合いが両者の間でなされるのか。 こんな料亭での密談が映画や小説の世界ではなく、現実に目の前で行なわれようとしているのだと、無意識に拳を握り込んだ。




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