「ホワイトナイト」
第八章

ホワイトナイト74

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 猛は努めてさりげなく訊ねると、伏し目になって箸を動かす。すると、房子は猛の疑念を一笑に伏して速答した。
「だって、自分の会社の利益のためなら、何もこんな急に買収なんてしなくていいじゃないですか。なのに年末年始にこんなに無理してくれたのは、陽介さんが彦坂旅館と猛さんを何とかして守ろうとしてくれたからなんじゃないんですか?」        
「そうだよね。やっぱり……」
「やっぱりって……。陽介さんが自分の会社の利益のためになんて。猛さんがそんな風に陽介さんを見ているなんて、私の方がびっくりですよ」
 房子は逆に意外だと言い、きょとんとしながら猛を眺めた。

 確かに陽介らによる買収が確定的になるに従い、利き酒会への参加をキャンセルしていた蔵元からも既に数件、あらためて参加させてくれないかという打診を受けている。 

 虫のいい話だと思いながらも、誰だって勝ち馬に乗りたいというのが人情というものだろうとも思う。
 そのうえ自分の父親か祖父のような男達から平謝りに謝られたら、見ている方が胸が痛んで、とてもじゃないが拒絶できない。もともと彼らも芹沢会長の脅威に晒され、やむを得ずキャンセルさせられた苦しい立場の人達なのだ。  

 だから、このタイミングで陽介が芹沢製薬にTOBを仕掛け、成功させてくれたお陰で、彦坂旅館は九死に一生を得ることができた。
 信用を失墜させることもなく、予定通りにイベントを開催させることもできる。離れていった蔵元達や陽介自身の謝罪によって、あれほど怒っていた房子や山岸も、すっかり溜飲を下げていた。 

 だから、陽介には感謝こそすれ、『利用された』などと非難する理由はどこにもない。
 ただ、陽介に『信用に値しない人物』として部外者にされたことを恨んでいるだけ。

 けれど、それだって何のコネも力もない自分が蚊帳の外に置かれたとしても、端から見れば賢明な判断だったと言えるのだろう。TOBの経緯は自分の家族にすら極秘にすると言われているのに、自分に何も言ってくれなかったからといって陽介を恨むのは筋違い。それももう頭では既に理解していた。

 なのに、気持ちの方がついていかない。
 陽介の判断の方が正しくて、自分はそれを受け入れるべき。そんなことは頭ではよくわかっているのに、陽介を見ると、どうしても責めてごねたくなるのだ。
 結局、自分は陽介に甘えているだけ。             
 その結論に至った猛が自己嫌悪でため息を吐き、ぜんざい片手に項垂れていると、事務所の電話に貴賓室からコールがかかる。




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