「ホワイトナイト」
第七章

ホワイトナイト72

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「……じゃあ、せめて携帯の電源は入れておいて。陽介さんと連絡が取れなくなったって、事務所はパニックだったのよ?」 
「わかった。……そうする」         
「それじゃ、私は陽介さんの事務所の方に行っているから」
 泣き笑いのように眉を下げて進言すると、綾が陽介の肩に手をかける。そうして確かめるようにぎゅっと握って手を放し、うつむきがちに踵を返した。

「綾さん……」
 猛の方へと歩いてくる彼女の微笑はあまりに侘しく寂しげだった。       
「あの、……僕。綾さん……」
 どうして綾はこんなに寂しげなのだろう。陽介に選ばれ、対等のパートナーであるはずの彼女を嫉妬と羨望の目で見つめていると、ふいに綾が含み笑った。

「社長と懇意にしてたって言っても、個人的な関係じゃないのよ? 別に。だから、誤解しないで頂戴ね」
 すれ違いざま、囁きかけていった綾は既にいつもの自信に溢れた彼女だった。
 その目力と甘い声音に猛はドキリと肩を波打たせ、一気に頬を赤らめる。そんな猛の初々しさを愛でるように目を細め、綾は人けのない裏門から路地の方へと姿を消した。            
 その後ろ姿だけでも間違いなく美しいひと。                  
 その上、ヨーロッパの王室や世界的企業のトップとも交流があるという雲の上のような人でなければ、きっと陽介の助けになんてなれないのだろう。
 ひたひたと劣等感が胸にこみ上げ、ぎゅっと眉根を寄せていると、陽介がおずおず声をかけてきた。

「猛。俺がお前に黙ってたのは、信用してないからじゃなくて……」    
 と、言い淀み、珍しく視線を逡巡させている。

「もういいですよ。今更何を言われても言い訳にしか聞こえない。もう全部済んでしまっているんですから、『はい、そうですか』としか言えないでしょう」     
 今更どんな言葉を並べられても、信用されていなかった事実が揺らぐことはない。
 今はただ、綾や望月のように陽介のブレインとしての力量もなく、部外者として蚊帳の外に置かれた自分が腹立しかった。情けなかった。猛は話を途中で遮り、陽介の脇をすり抜ける。

「猛……っ」                                    
 最後に力なく呼び止める声が聞こえたが、陽介も後を追ってはこなかった。
 本当は陽介に会えて嬉しかった。心の底からほっとしたのに、ひがみや嫉妬で素直になれない。本当は戻ってきたら、お帰りなさいと抱きしめようと思っていたのに。
 お疲れ様と労いたかったはずなのに、猛は頑なに顔を伏せたまま、冬枯れの小径を走り抜けた。  




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