「ホワイトナイト」
第六章

ホワイトナイト62

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「買収たって、芹沢製薬は日本の会社じゃないですか。陽介さん所みたいな小さい会社や外国のメーカーさんが、一体どうやって」
「房子さんも芹沢製薬は株式会社だから、その会社の株を一番たくさん持ってる人が社長になれるってことはわかるよね?」    

 猛は混乱する房子を落ち着かせるため、あえてゆっくり話をした。しかし、房子は驚いたように目を見張る。
「ええっ? だって、芹沢製薬は芹沢さんの一族が創業したメーカーさんじゃないですか。それなのに、全然血縁のない人が社長になんてなれるんですか?」
「うん。株式会社っていうのは、そういう決まりになってるんだ。だから、いくら芹沢製薬の社長さんが創業一族の血縁でも、もし今の社長さんより芹沢製薬の株をたくさん保有する人が出てきたら、その人が社長さんになっちゃうんだよ」

「あら、まあ。そんな理不尽な」
「そう。本当に理不尽なんだけど、そういう決まりなんだから仕方がないんだ。だから、敵対的買収っていうのは、大体はその会社の乗っ取りを目的にして、『この会社の株を幾らで買いますから、売って下さい』って、その会社の株主さん達にお願いするってことなんだ。つまり、陽介さんが『皆さんが購入した芹沢製薬の株の値段より、ずっと高い値段で僕達が株を買いますよ。だから、僕達に芹沢製薬の株を売ってくれませんか? 』って言ったら、どうなると思う? 株主さん達は、『じゃあ、陽介さんところに売ろうか』って話になるよね?」    

「そりゃあ、自分が買った値段より、もっと高い値段で買ってくれるんなら売るんじゃないですか? その差額が利益になるんでしょうからねえ」
 房子は諾々と頷き返した。

「じゃあ、そうやって買い集めた結果として、陽介さんが取得した株の保有数が芹沢社長よりも多くなったら、芹沢製薬の社長は誰になる?」                
「……陽介さんが社長になれるって、ことですか?」  
「そう」
 あっけにとられる房子の言葉を肯定し、猛はテレビに視線を戻した。

「陽介さんは芹沢製薬を乗っ取って、自分が社長になるつもりなんだ」
 画面に映し出された陽介は悠然とした微笑をたたえ、流暢な英語で記者達のインタビューに答えている。   
 スーツの袖口からオニキスの黒いカフリンクスをちらつかせ、身振り手振りで鷹揚に語る陽介のその微笑みは、冴えた刀の閃きのように艶めかしかった。猛は蠱惑的な眼差しに吸い寄せられていくように、ふらりと腰を上げていた。 

 しかし、どんなに山岸が応対しても電話は次々鳴り出して、山岸をさらに追いつめる。  
「すみません、猛さん! さっきから陽介さんの話で皆パニックなんです。猛さんも電話に出て下さい!」         
 悲鳴のように声をかけられ、猛ははっと我に返った。慌てて周囲を見回すと、電話の受話器を取るために山岸が事務所を駆けまわっている。猛もすぐに手前の電話に手を伸ばし、混乱している取引相手の応対に追われた。


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