「ホワイトナイト」
第六章

ホワイトナイト60

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「ところで、蔵元の方はいかがでした?」
 山岸は、まだグズグズと洟をすすって涙を拭う猛に熱いおしぼりを渡し、優しい声で訊ねてきた。                             
「利き酒会の後も、うちが定期的に仕入れることが前提ならって、何とか県内で一件OKしてもらえたよ。だけど、やっぱり厳しいね。隣県でも麹の仕入が芹沢会長の縁故の業者だったりするし……」 
 渡されたおしぼりで腫れた目蓋を押さえながら、猛は捺印済みの契約書を封筒から出し、山岸に渡した。     
「すごいじゃないですか。県内からはずっと敬遠されてきたのに、契約が取れたなんて」  
 社印が押された契約書と猛の顔を交互に見つめ、山岸が嬉しそうに破顔する。房子も山岸の肩越しに書類を覗き見ると、手を叩いて喜んでくれた。 
 猛も騒動依頼初めて県内からの提供者を確保できて嬉しかったが、県内の提供者が一件だけでは地元のイベントとは言い難い。

「せめてあと四件は欲しいなあ……」
 赤くなった鼻の下を熱いおしぼりで押さえながら、猛は思わず呟いていた。
「まあ、あと一ヵ月ありますから。焦らず根気強く、説得していきましょうよ」
 温和な笑みを返した山岸が帳簿を広げたデスクに戻り、黙々とパソコンに向かい始める。  

「じゃあ、私も何か夜食でも作りましょうかね。吾平餅でも焼きますか?」
「ありがとう。ちょうど腹減ってたんだ。お願いします」
「わかりました。ちょっと待ってて下さいね」
 房子も空いた湯呑みを片付けながら席を立ち、いそいそ給湯室へと姿を消した。 
 ようやくひと心地ついた猛がテレビのスイッチを入れ、膝の上に新聞を広げた時だった。深夜のニュース番組で速報を告げる電子音が唐突に鳴り、猛と山岸が顔を上げる。

「ただ今、ニュースが入りました」           
 神妙な面持ちで美人キャスタ-が原稿を読み上げ、彼女の背後に若い男の顔写真と役職名が映し出される。                                  
 『成井ファンドによる芹沢製薬買収提案』  
 は、その後も淡々と報じられ、続いて画面は成井ファンドの会見場へと切り換えられた。


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