「ホワイトナイト」
第六章

ホワイトナイト54

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彦坂旅館の正門に豪壮な門松を据え、旅館の男衆が数人がかりで連縄飾りを張っている。
 その正月支度を写真に収め、望月が背後の猛に人好きのする甘い笑顔を向けてきた。
 
「本当にごめんね。こんな歳の瀬になって、部屋はないかなんて無理言って」      
「いいえ、そんな。またお泊り頂けてうれしいです。それに、うちの旅館と利き酒会のコラムを凄く丁寧に書いて下さって、ありがとうございました」
 望月のコラムが掲載されたファッション誌は旅館のロビーに常備してあり、宿泊客にも自由に読んでもらっている。                               
「コラムを読んだお客様から利き酒会へのお問い合わせ頂いたりしているので、とても助かっているんです」
「利き酒会は二月の中旬だったっけ」
「二月の第二土曜日です」
「楽しみだなあ。僕ももう、申し込みさせてもらっているから」 
 猛は屈託なく『楽しみ』だと言う望月の言葉に、僅かに眉間を曇らせる。   

 利き酒会は中止にはせず、開催予定のままでいる。
 だが、あれからやっとの事で確保した蔵元はまだたったの三件。それも芹沢製薬とは取引のない県外の蔵元ばかりだった。

 三件とはいえ、それぞれが三種類ほど新酒を提供してくれるので、酒の種類自体は少なくはない。けれども、客は目新しさを求めて来るのだ。蔵元がたった三件では面白みに欠けるだろうし、インパクトがない。 
 あと一ヵ月強の猶予があるとはいえ、新酒を提供してくれる蔵元は県内からも見つけたかった。少なくともあと五件は欲しいところだ。

 しかし、あと一ヵ月で本当に見つけることができるだろうか。   
 断られても根気よく頼みこむしかないとはいえ、無意識のうちに杞憂を顔に浮かばせていると、望月が声をかけてきた。

「だけど、あれはこの辺りだけの伝統なのかな。正月飾りの注連縄にしては珍しいよね」   
 望月が指差したのは、神社の鳥居に見られるような注連縄を門の軒下に張り、その両端に松の枝を飾りとして刺す正月飾りだ。稲妻型の垂と松の枝以外に飾りをつけない注連縄は、新年の華やぎよりも神域の厳かさに近い風情を醸している。

「注連縄の両脇に松の枝を添えるのは、この辺だけの風習だと思います。たぶん、門松の意味合いを兼ねてるんじゃないでしょうか」                        
「僕は来年、こういう日本の原風景を撮ってまわろう思ってるんだ。だから、こういう昔ながらの鄙びた地域の年末年始が撮りたくなって」
「この辺りは家並みだけじゃなくて、伝統的な風習や行事もたくさん残ってますからね」  
 取ってつけたように来訪理由を説明しながら、望月があちこち写真に収めている。それがる『表向き』の理由だということぐらい重々承知していたが、あえて言及しなかった。

 互いに仮面のような笑顔を向け合い、猛は囲炉裏を切ったロビーに彼をいざなった。灰の中で赤々と燃える炭火の上には網が置かれ、年末年始を宿場町の旅篭屋で楽しもうという客達が団子や餅を自分で焼いて楽しんでいる。     


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