「一緒にいようよ」
第四章

一緒にいようよ 50

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「剛志……」
か細い声で呼びながら、おずおず背中に手を回す。
いつもの剛志はTシャツか綿シャツだが、今日はスーツのジャケットだ。
何だか咲はくすぐったくなり、泣き出したいのに微笑した。
子供の頃から咲、咲と、雛鳥のようにピーピー鳴いて
ついて来ていた弟分が、大人の男になっていた。
ワイシャツを纏った広い胸に抱かれて、咲はそっと目を閉じた。
剛志の腕にも一層力が込められて、背が弓なりに反りかえる。
「剛、……志」
胸の奥から絞り出された咲の声は、恋人を呼ぶ甘い声音に変わっていた。
背中で感じる剛志の腕の逞しさ。
汗の匂いが混じったような男の臭気が強くなり、
身体が熱を帯びてくる。

「俺だってそうだ」
咲のうなじに顔をうずめ、呻くように剛志が言った。
「俺だって咲を置いて行けるわけない。絶対に……」
顔を上げて息をつぐたび、咲を固く抱き直す。
息が上がった剛志の吐息にうなじを撫でられ、頭が痺れる。心が奮える。
心臓が張り裂けそうに恋していた。

この胸の中にもう一度帰れるなんて思わなかった。
気づいた時には永遠に失くしてしまっていたはずの剛志の胸だ。
咲は、その胸の中で身じろいだ。
頬を離して額を押しつけ、声を殺して涙した。
抱き締めていた剛志の腕も少しだけ緩み、
丸めた咲の震える背中を愛おしむように撫でている。

「……咲」
掠れた声で静かに呼ばれ、顔を上げた。
剛志の切れ長の目が細められると、
精悍な顔が男の色香をまとって艶めき、咲の鼓動を逸らせる。
座敷の空気も次第に密度を増すようで、息が苦しくなっていた。

「ずっと咲にキスしたかった。……キスして咲を、……恋人にしたい」    
「うん。……うん」
俺もと剛志に伝えるために、熱い身体をかき抱く。
互いの磁力に引かれるように静かに唇を重ね合わせ、
恋人のキスを交わし合う。
静まり返った座敷の居間に、唇が立てる濡れた音と衣擦きぬずれのが、
やけに鄙猥に響いて消える。
「咲……」


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