「ホワイトナイト」
第五章

ホワイトナイト49

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「この際、陽介さんの事務所とは手を切るべきじゃないでしょうか。うちはまだイベントへの横槍程度で済んでいますが、他の店のように取引を全部断られてしまうような事にでもなったら、取り返しがつきませんよ?」
 腹に深く響くような低い声音で畳みかけられ、猛はぐっと喉を詰めた。

 山岸の杞憂が単なる脅しではないことも、既に証明されている。
 そうなる前に手を打てという、彼の意見はもっともだろう。               

「だけど、僕は陽介さんが連絡を断っているのは、やっぱり何か事情があるんだろうと思っている」 
 猛はそれでも決死の思いで顔をあげ、悲壮な目をして訴えた。
 自分は名目上は社長であっても、働き始めて一年未満の新入社員だ。山岸や房子のようなベテランを前に意見するのは震えるほどに恐ろしかった。それでもぎゅっと拳を握り、まっすぐ二人を見つめて続けた。

「だから、今すぐ契約を解除するのは幾ら何でも性急すぎるよ。だって、陽介さんからまだ何も説明してもらってないんだよ?」   「だって、いつ帰ってくるかもわからないのに。いつまで待てって言うんですか」     
「説明を待つまでもなく、この十日前後の陽介さんの行動だけでも、充分契約解除に至る理由になると思いませんか?」
 猛は身振り手振りを加えながら語気を強めて語るうちに、顔まで熱くなるのがわかる。しかし、房子も山岸もそれぞれ意見を重ねてきた。

「どのみち契約解除するんなら、少しでも早い方がキズも浅くて済みますよ」
「提携相手がちょっとぐらい危なくなったからって、慌てて切り捨てるような真似をしたら、うちの信用にだって関わるし。僕は、もう少し様子を見るべきだと思う」         
 お互い腹を割って話をしても、意見の一致はみられない。房子は途方に暮れたように、肩で大きく息を吐き出し、両手で顔を覆って言った。                     

「だけど……。陽介さんに義理立てしてるうちに、うちまで危なくなったりしたら」  
「うちにだって、いい時もあれば悪い時もあるよ。陽介さんだって一緒だよ。だから皆で助け合ってきたんじゃないか。お互い甘い汁を吸う事だけがパートナーシップじゃないだろう? 『死なば諸とも』じゃないけどさ。陽介さんは、うちに投資したって採算取れるかどうかもわからないドン底の時に手を貸してくれた人なんだよ?」
「わかっていますよ。私だってそんな事は……」
 恩知らずと言われたように感じたのだろう。
 房子は頭を振って反論しながら、堅くハンカチを握りしめた。そんな彼女の肩を叩いてあやしつつ、山岸がおもむろに猛に訊ねる。  

「じゃあ、猛さんはあくまで陽介さんと提携していくおつもりですか?」    
 穏やかに問いかけてくる山岸は、泣きじゃくる房子と対照的に腰が座り、その佇まいだけで若い猛を圧倒した。 
 もし、ここでそうだと答えたら、この誠実で有能な番頭を失うことになるかもしれない。   
 猛は喉元に刃を突きつけられて是か否か問われた気さえした。

 それでも若竹のように背筋を伸ばし、下腹にぐっと力を込める。


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