「ホワイトナイト」
第一章

ホワイトナイト4

 ←ホワイトナイト3 →ホワイトナイト5
「し、……失礼しました。申し訳ございません」
 能面のような顔で凝視してくる陽介に、猛は渋々頭を下げた。たとえ腸が煮えくり返るようでも今は、旅館のためにと堪えていると、やがて陽介がぽつりと言った。

「だったら今すぐ、お前んとこの三年分の帳簿と宿帳持って来い」          
「……えっ?」
「試しに査定してやる、つってんだ! ぼさっとしてねえで、さっさと持って来い!」   
 指示された言葉の意図がわからずに、ぽかんと口を開いた猛を陽介が問答無用に怒鳴りつける。 
「はいっ、すみません! 少々お待ち下さい!」
 猛は条件反射で返事をすると、まろぶように社長室を飛び出した。そして、彦坂旅館の事務所に戻り、棚から出した古い帳簿を胸に抱え、息せき切って『成井ファンド』に戻って来た。

 街道添いの古民家を改装したという陽介のオフィスは廂が張り出た出梁造りで、千本格子や虫篭窓。
 白漆喰の古い壁。
 黒光りする梁や建具や板間の床が往時の名残を感じさせた。 
猛は一階の土間から二階に続く急な階段を上りつつ、やはり古い帳簿を早くデータ化しておくべきだったなと後悔した。

「……すみません、あの。言われた通り、うちの帳簿と宿帳持ってきました」
 猛は額に汗を浮かせながら、開け放たれた社長室の出入口から顔を覗かせ、恐々陽介に申し出た。 
 二十畳近くある広々とした部屋の右手に、応接セットと美濃和紙の間接照明。
 左手には飾り棚と資料棚が、そして格子窓の手前に黒塗りのテーブルと革張りのエグゼクティブチェアが置かれている。陽介は顎でしゃくってそれらを応接セットのテーブルの上に積み上げさせると、代わりに数字と図形で埋め尽くされた資料を無言で押しつけてきた。

「何ですか? これ」
「彦坂旅館が今後一年以内に倒産した場合の債権処理をシミュレートした」  
「はあっ?」
「どうしようもねえなあ、お前んとこは。今の時点で売りに出しても、タダ同然で買い叩かれて終わりだろ」            

 陽介はあっけにとられる猛の前で苦々しげに吐き捨てて、彦坂旅館の帳簿を膝の上で開いていた。
 つまり、陽介に渡された資料とは、旅館の倒産後に会社を売却するとしたら、いくらで買い取ってもらえるかという企業評価を数値化したもの。そして、今現在の彦坂旅館の企業評価はほとんどゼロだと言い切られ、猛は頭が真っ白になる。      

 確かに不況の煽りを受けて、部屋の稼働率は最盛期の五分の一まで減少している。
 しかし、だからといって面と向かって査定はゼロと言われてしまうと、返す言葉もなくしてしまう。午睡の日差しに透かされた格子窓が、黒光りする板間の床に光の格子を作っていた。




にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【ホワイトナイト3】へ  【ホワイトナイト5】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【ホワイトナイト3】へ
  • 【ホワイトナイト5】へ