「ホワイトナイト」
第五章

ホワイトナイト47

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「猛君……?」
 伺うように恐る恐る声をかけられ、猛は弾かれたように振り返る。 
 と同時に、ヴィトンのスーツケースを引きながら、綾が小走りに駆けてきた。ヒールの硬質な靴音が鄙びた街道に響き渡り、道行く観光客が異質なものを見るような目で綾を捉える。 

「ごめんなさいね。急に黙って留守にして」    
 綾は襟元にファーをあしらったオフホワイトのロングコートに黒のブーツ。
 髪もタイトにまとめ上げ、耳元には上品な光沢を放つパールのピアス。珍しくコーラルピンクの華やかなメイクをほどこした綾は、すれ違う男達を振り返らせ、立ち止まらせるほど美しかった。
 だが、綾は唖然としている猛に薄く微笑みかけると、すぐに店の戸口に鍵を差し込む。      

「でもまた、すぐに出ないといけないの。今日はちょっと店に寄っただけだから」      
 腕時計に目を落とし、宥めるように眉尻を下げて断る綾に、猛は慌てて縋りついた。
「陽介さんは? 陽介さんは一緒なんじゃないんですか?」
 挨拶を交わす余裕もないまま性急に正面にまわり込み、彼女の肩を掴んで揺さぶる。それでも綾は悼むような目で猛を見つめ、悲しげに眉をひそめて答える。     

「ごめんなさい」
「……綾さん」             
「陽介さんのことは、今は何も言えないの」   

 綾は自分の肩にかけられた手をそっと外し、小さく首を左右に振った。 
 ただ、陽介について綾は何かを知っていて、『今は』それを言えないだけだと、ほのめかされたも同然だった。表情をなくした猛の前を通り抜け、引き戸をくぐって綾の気配が消えるまで、猛はその場に立ち尽くしていた。     


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