「ホワイトナイト」
第四章

ホワイトナイト45

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「陽介さん……っ」
 いつまでも甘えて抱きつく陽介を、猛は両手で剥がしにかかる。
 ふざけているのか。それともキスにかこつけて、何か別の意図を伝えようとしているのか。ちゃんと顔を見ながら話がしたいと、陽介の肩を両手で突っぱね、遠ざけた。
 しかし、あっけないほど簡単に離れていった陽介のせいで、猛の方が仰け反った。     

「わっ……、あっ、ちょっと……っ」
 バランスを崩して泳がせた手を陽介が咄嗟に掴んで引き上げる。
 お陰で転倒こそしなかったものの、瞬時に態勢をたて直し、乱れた呼吸を整えながら抗議の声をあげかけた。けれども、間近に迫った陽介の目が猛をひやりと凍りつかせる。

「……陽介、さん?」
 月を背にした陽介の顔は暗く翳り、悲しみにも似た光を宿した双眸がもの言いたげに眇められる。まるで雲を掴むように思わず伸ばした猛の手を避け、陽介が背後に退いた。

 何か、取り返しがつかないことが起きようとしている。
 理屈ではなく、肌でそれを悟った猛が一歩前に進み出ると、陽介がその追随を拒むように顔を背ける。

 陽介の視線が向けられた先には、明かりの消えた綾の店の連子格子の窓があった。ひっそり閉じられた格子窓を侘しく見つめた陽介が、唐突に取ってつけたような笑顔を浮かべて猛に言った。                 
「じゃあ、また明日」    
 と、頭の上に乗せられた大きな掌。
 その手を掴もうと両手を掲げた時にはもう、陽介は踵を返して石畳の裏路地を走り去る。 
 静謐な街道に突如響き渡った革靴の音が、次第に小さくなっていく。それでも猛はなす術もなく立ち尽くし、立ち去ることも追いかけることもできずにいた。         

 冬めく夜空に棚雲が流れ、月が不穏に翳り始める。路地に伸びた庭木の葉影も儚く薄れ、墨のような闇の中に陽介の背中も紛れて消えた。


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