「向かい風を行く」
第七章

向かい風を行く 63

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していいのならすると言う。
それは、ヤレる時にヤるだけの男の本能に従う、という意味なのか。
美貴の車のハンドルを握る甲斐の横顔を助手席で、美貴はそっと盗み見た。
あれから結局、付き合うとも付き合わないとも言われていない。
ただ、甲斐は父親名義のマンションに、これから連れて行くらしい。

「うち、来客も多いんで。
その人達に泊まってもらうホテル代わりに借りてるだけの部屋なんです。
さっき父親に確認したら、今日は使ってもいいそうです」
手際よく場所も確保して、ぽかんとしている美貴を車に押し込んだ甲斐は、
どこか横柄で投げやりだった。
まるで街中でナンパした相手をホテルに連れ込むかのように。

「見えてきました。あのマンションです」
そう言って視線を転じた高層マンションは、
見るからにセレブリティな雰囲気を醸している。
このタワーマンションを住居ではなく、別宅にする財力があるということか。
車を地下駐車場に滑り込ませて停車させ、先に甲斐が車を降りた。

けれども美貴は助手席のドアを開けられずにいた。
このままついて行っていいのかどうか、わからない。
場違いな場所に紛れてしまったかのような不安で身体をすくませていると、
甲斐に助手席の窓をノックされた。
「どうします?」
美貴が窓を開けるやいなや、大人びた口調で言い放つ。
「……甲斐」
「迷っているなら、このまま家まで送ります。このことは俺も忘れますから、
ヨシキさんも忘れて下さい。それでいいじゃないですか」
冷たい微笑を口元に貼りつかせたまま、
甲斐は美貴が開いた助手席の窓枠に手をかけた。
目だけは美貴の喉元にナイフの切っ先を突きつけているかのようなのに。

美貴は心臓がバクバクするのを感じていた。
あまりに鼓動が速すぎて、考えも返事も追いつかない。
美貴が言葉を紡げずにいると、更に駄目押しをするように、平坦な声音で迫まってくる。

「もう、お互いにこのことは、なかったことにしませんか?」
甲斐の中ではもう既に、その結論に達しているかの口振りだ。

そんなに迷うぐらいなら、一度考え直してみたらいい。
そう忠告されているのだろう。
けれど帰ることを選んだら、その先にあるのは、
お互い何もなかった振りをする暗黙の了解だけになる。
このことには決して触れない禁忌になるということだ。お互いに。

それとも、ここで車を下りるのか。下りてその先に進むのか。
甲斐はそれを自分で選んでいいんだと、美貴に目顔で迫っている。


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~ Comment ~

しまだ様へ

今度の話、どんな風に皆さん感じたり思ったりしながら
読んで下さっているのかなと、
無性に不安に感じる時もあったので、初コメントを頂いて
すごく嬉しかったです。ありがとうございました。

しまだ様。
お待たせしました。
やっと、ここまで辿りつきましたよ、この二人。
続きが楽しみだとおっしゃって下さる方がいることが
何よりの励みです。

最後まで予断を許さない展開でありたいと思いつつ
書いています。そういう二人です。
しまだ様にも最後の一行まで、この『焦れ焦れ』を
ううぬーっ!!!と、楽しんで頂けましたら嬉しいです。

いつも楽しみしております。
今回のお話も焦れ焦れで、うーーー!!!と悶えております。

ただ、この焦れ焦れ、それ以外の部分に比べて長くないですか?

あっ。でも、私が楽しみ過ぎてるのかな(笑)??

なんか、本当にすみません。
続きが楽しみ過ぎなんです
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