「向かい風を行く」
第六章

向かい風を行く 59

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「だけど、……ヨシキさんはゲイじゃないですよね?」
ようやく甲斐も何を言われているのかを、
言外に察したようだった。
けれど、確かめる甲斐の口調に怒気が混じり、
語尾は喧嘩腰だった。
酔っ払いに絡まれて、質の悪い冗談で、からかわれたと思ったのだろう。
離れていても剣呑な空気が漂った。

美貴は、もたれかかった展望台の鉄柵から、
ため息混じりに身を離し、進み出る。
歩み寄る美貴を甲斐は目を尖らせて見つめていた。

「お前さ。ゲイとかゲイじゃないからとか。勝手により分けるなよ、傷つくから」
外灯を背にした甲斐を仰ぎ見ながら美貴は切なく懇願した。
甲斐にとって同性愛者は身内であり、そうでなければ他人になってしまうのか。
だとしたら、榊原は甲斐の身内で、自分はそうではない相手。
別世界の住人か。
そんな風に線引きされてしまったら、
どうやって関わればいいのかもわからない。恋愛以前に人として。

ゲイなのかゲイじゃないのか。
そのフィールドは永遠に交わることはないのだろうか、本当に。
お前は向こうの領域だろうが、あっちへ行け。
こっちの領域じゃないはずだろう。あっちへ行け。

どのフィールドの所属かどうかでお互いに突き飛ばし合っているようで、
寂しくなった。とてつもなく。
美貴は驚きと戸惑いと不信と嫌悪が入り混じり、
あやふやに歪んだ甲斐の顔を凝視した。
甲斐にフラれたことよりも、突き飛ばされたことの方がショックだった。
侘しくて寂しくて胸をえぐられるようだった。

「だから、俺を振るならゲイじゃないから駄目だ、じゃなくて。
タイプじゃないからゴメンって言えよ。その方が俺も諦め、つくからさ」
美貴は顔を伏せて失笑した。
アスファルトの路面に置いたコンビニ袋を持ち上げて、
ぶらぶら歩いて外灯の下のベンチに座り、袋の中から缶ビールを取り出した。
甲斐の口振りからもう望みはないと悟っていた。
ぬるいビールを半ば投げやりになって啜っていると、
程なく問いつめるように甲斐が言う。

「……本当に、なんですか?」
「こんな嘘ついてどうするよ」
身動ぎひとつしないまま、甲斐は拳を握っている。
薄闇に紛れた長身のシルエット。
近づいても来なければ、遠ざかりもしなかった。


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