「向かい風を行く」
第六章

向かい風を行く 57

 ←向かい風を行く 56 →向かい風を行く 58
「付き合ってるとか、そういうのはないですけど……」
たどたどしく言いながら、甲斐はだから、何? どうしたの?
そんな目で美貴を見た。
さっきまで楽しそうにしてたのに。それなのに、どうしたの?
唐突にイライラし出した美貴に慄き、甲斐は顔色を曇らせる。

美貴は『いない』と言われた瞬間に、思わず顔を上げていた。
その瞬間だけ目が合った。
外灯も消された薄闇の展望台でもわかるほど、
甲斐は無邪気に美貴を見た。目を逸らしたりせず臆したりせず、
ただ気遣ってくれている。

その時、美貴の中では浮き上がるような安心と、地面にめり込むような落胆が、
それぞれ同時に湧き起こり、ない交ぜになって渦巻いた。
結局、半笑いになりながら、
美貴は膝を抱えた自分の腕に顎を乗せ、視線を虚ろに彷徨わせる。

本当に眼中にないんだな。
答えをもらう前より更に打ちひしがれ、何も言葉が出なかった。
こんなに牽制球を投げたのに、甲斐は微動だにしていない。
受け取ってさえいなかった。
そんな気がして、何かがすっと心から落下したのを感じていた。
美貴は足が痺れて立ち上がり、伸びをしながらさりげなく背を向けた。
甲斐を見なくて済むように。
そうしなければ本当に泣いてしまいそうだった。

眼下に広がる町の灯りも、さっき見た時より数が減り、闇の濃さを増していた。
今日という日の祭の熱は漠とした寂寥に変わりつつある。
美貴の中でも熱狂は潮のように引いていた。

甲斐と二人で手筒花火の砂鉄の火の粉を浴びながら、
熱さに恐怖にも耐えた数分間。
あの夢のような数分が天高く打ち上げられた花火のようにキラキラと、
放物線を描きつつ夜空の闇に消えて去る。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【向かい風を行く 56】へ  【向かい風を行く 58】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【向かい風を行く 56】へ
  • 【向かい風を行く 58】へ