向かい風を行く 52

 18, 2017 06:59
壮麗だった祭りの後の、
一抹の寂しさに覆われた境内を、甲斐が先に後にする。
観客もいなくなり、午後九時を過ぎる頃には帰路につく青年団のメンバーもいた。
 
後片付けは明日の朝に行なう手筈になっている。
だから、そこかしこで青年団の打ち上げも始まり、ビールを呑みつつ爆竹を鳴らしたり、
市販の花火を楽しんだ。
しかし美貴は彼らの誘いを断って、
鳥居の外で待っていた甲斐に急いで追いついた。

「俺、今日車で来てんだけど。お前、帰りは運転してもらってもいい?」
境内の駐車場に停めた車に案内しながら訊ねると、甲斐は快く応じてくれる。
「じゃあ、俺が呑んでも大丈夫だな」
本音を言えば、甲斐と乾杯したいところだが、何しろ相手は未成年だ。
しかも、親は国会議員の御令息。
そんな甲斐に、未成年飲酒という危険な橋を渡らせるわけには
いかないところが残念だ。
 
美貴は助手席に甲斐を乗せてコンビニに寄り、
ビールと摘みと甲斐用のノンアルコールドリンクや菓子の他に、
子供用の花火セットも買い込んだ。
「花火セット、要りますか?」
訝しそうに訊ねられ、美貴はにやりとほくそ笑む。
「これは、後夜祭の必需品。うちの町内の手筒花火の奉納祭事の伝統だからな。
覚えておけよ、新入り」
「はい……」
一応頷いて見せたという、間の抜けた顔が愛らしい。
美貴は会計を済ませると、行き先を甲斐に教えないまま改めて、
車の運転席に乗り込んだ。
甲斐の両親が乗っている日本で一番の高級車の足元にも及ばない、
庶民的な軽自動車だが、甲斐は鼻白む様子もない。
なんでこんな小汚い車に乗らなきゃいけないんだ、などという、
親の威光を傘に着た勘違い系お坊ちゃま特有のプライドは、
甲斐には全くないらしい。

むしろ嬉々として助手席に乗り入れて、シートベルトを締めながら、
物珍しげにあちこち見回し、瞳を輝かせている。少年のように。
「ヨシキさんは運転中に音楽かけたりしないんですか?」
車を走らせた直後に甲斐が身を寄せるようにして訊ねてきた。
車内には、どこかのアイドルグループの女の子達が好き勝手にしゃべるだけの
無意味なラジオが流れている。
「うん。俺、あんまりこだわりないからな。音楽より、誰かが適当にしゃべってるラジオ。
聞いてた方が、おもしろいじゃん。何となく」
「寂しがり屋なんですね」
甲斐が、クスリと笑って言う。
「何だ、それ。何、その解釈」
「何って、ヨシキさんらしいなってことですよ」
助手席の窓枠に肘をかけ、頬杖をついた甲斐に艶然と微笑まれ、
ハンドル操作を危うく誤りそうになる。

「じゃあ、お前はいつも何か音楽かけてんの?」
美貴はハンドルを握る両手にぐっと力を入れ、事故だけは犯すまいと奮起する。
「覚えてませんか? この前、病院から家まで送ってあげたじゃないですか」
からかうような口調だった。
実際、からかわれているのだろう。横顔に感じる甲斐の視線が
いつになく熱っぽい。
「……覚えてねえなあ。そんなこと」
実際、あの日は車の後部座席のドアを甲斐に開かれたショックを引きずったままだった。
車中で何を話したのかさえ何も思い出せないほど。


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ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
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