「向かい風を行く」
第五章

向かい風を行く 48

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「無事に済んで良かった、ヨシキさん」
「だから大丈夫だって言ったただろう」
美貴のハイタッチにもぎこちなく応え、甲斐がしみじみ呟いた。
だが、どんなに大丈夫だと強調しても、新人達には何の慰めにもならないことは、
経験者である美貴自身もわかっていた。
 
恐ろしいのは筒の暴発だけではない。
真っ赤に焼けた鋳鉄の固まりが落ちてきたら、火達磨になるかもしれないのだ。
過去には最後のハネが足に当たり、足の指がふっ飛んだ事故もあったという。
拝殿前に最初の新人演者が入場し、いよいよ奉納となった時、
賑やかだった境内に一瞬の静謐が訪れた。

だが、案の定危惧した通り、点火した手筒を脇に抱えたものの、
火柱を噴き上げる筒から顔を背けてしまい、身体が傾いでしまう者。
最後のハネの衝撃で、思わず筒を落とす新人までいた。
「ヤベえな。今年はマジで洒落になんねえ」
美貴は腕組みしながら歯噛みした。これまでになく腰の引けた奉揚ばかりで唸っていると、
いよいよ甲斐の番になる。
「行くぞ」
「はい」
毅然として頷いた甲斐が自分の手筒を抱え持つ。その甲斐を指導者の美貴が提灯を下げて先導し、
鳥居をくぐって参道を進み、拝殿の前で足を止めた。
続いて甲斐が筒の火口を拝殿に向けて地面に置き、点火の衝撃で筒が回転しないよう、
筒の下部に足をかける。
美貴の方は上部に右足をかけて固定すると、
提灯の火をトーチに移し、手筒の火口に点火した。

「側にいるから」
「はい」


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