「向かい風を行く」
第五章

向かい風を行く 47

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直後に神社が真の闇に沈み込み、
拝殿で大太鼓が打ち鳴らされる。
続いて鳥居と拝殿の柱を繋ぐ二本の綱に御神火が点され、
鳥居から拝殿に向かって火の玉が駆け抜けた。
 
露払いの綱火が疾風のように空を切る音。
拝殿前の柱にあたって砕ける音がたて続けに響き渡ると、観客席がどよめいた。
綱火の火の粉が雨のように降り注ぐ参道に、
美貴を含めた三名が進み出てきて横に並び、最初に片手手筒の奉納という流れになる。

小型の筒の胴に縄で作られた柄を片手で掴み、水平に腕を伸ばしたまま、
七メートルもの高さになる火柱の重みに耐え続けるのだ。
 
真っ赤な炎を垂直に吹き上げ、
演者に火の雨を降らせた花火が燃え尽きるその瞬間、爆音とともに底が抜け、
地面に向かって爆風が吹き出した。
筒の底に詰められた特殊な火薬に、最後に火が点き、爆発的に炎を噴き出すからだった。

「……よしっ!」
という、かけ声とともに、その衝撃で美貴の身体が手筒ごと、
大きくぐるりと反転した。
漆黒の闇の中に八の字を描いて消える炎の演舞。
その後、残りの二人の手筒の底からハネの大きな炎が上がった刹那、
観客席から歓声と拍手がわき起こり、境内は熱狂的な喝采と火薬の匂いに包まれる。
 
美貴を含めた片手手筒の演者達は、拝殿裏の控えのテントに意気揚々と戻るなり、
青年団の連中にも拍手と労いの出迎えを受けた。
「ミキさん、お疲れ」
「やったな、ミキ」
暴発事故は美貴よりむしろ、周囲に濃く影を落としたのだろう。
美貴は仕事仲間や家族からも肩を叩かれ、揉みくちゃにされていた。
「大丈夫だったか」
筧にまで真顔で心配そうに詰め寄られ、美貴は思わず苦笑した。
「全然平気。何も問題ない」
 
あんな事故があったからこそ、自分が臆する姿を見せてはならない。
それだけは心に決めて臨んだ今回の奉揚だ。
美貴は新人達にも見せつけるように、
あえて満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズを取ってみせた。
 
そのあと美貴は、出迎えた団員達の一番後ろで安堵の表情を浮かべる甲斐に駆け寄り、
甲斐の両腕を無理やり上げさせ、ハイタッチを強要した。


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