「ホワイトナイト」
第四章

ホワイトナイト42

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「陽介さん」
 坂道を下る陽介の背中が見る間に遠退き、小さくなった。猛は思わず駆け出して、陽介の後を追いかける。追いかけずにはいられなかった。無性に不安にかきたてられて、声を上げそうになっていると、やがて陽介が足を止める。 
 
 旧街道を下りきった先の道なりに駐在所があり、軒下の赤いランプが点されている。もう長い間無人だったはずの駐在所から制服姿の警官が現われ、陽介に声をかけていた。    
 「なんか大変そうですねえ。大丈夫なんですか? 商売の方は」 
 見るからに屈強な体格をした警察官は労うように陽介の肩を叩きながら、豪快に笑い声を響かせている。
「嫌だなあ。もう峰さんにまで伝わってますか」
 陽介は愁傷に眉尻を下げ、はにかむように頭に手をやる。
 追いついた猛が二人を交互に見比べながら、おずおず隣に並び立つと、警察官がにっこり笑って会釈を寄越した。

「今晩は。先週からこの駐在所の勤務になった峰と申します」
「そうなんですか。彦坂旅館の彦坂です。もうずっとこの駐在所は無人だったものですから、驚きました。お疲れ様です」
「この前、陽介さんが県警に交渉されたんです。夜間営業する店が増えて治安が悪くなってるから、駐在勤務して欲しいって」   
「峰さんには、こんな辺鄙な田舎町に来てもらって感謝してます。本当に」      
「いやあ、必要とされてる所で勤務した方が警官冥利に尽きますよ」
 まだ三十代前半だという警察官は陽介に、
「彼女募集中なんで、今度合コンセッティングして下さい」
 と、耳打をして、猛に笑顔で敬礼をする。 
 こんな夜でも溌剌として駐在所へと駆け戻る峰の背中を見送りながら、猛はあらためて胸を熱くした。

 町を活気づかせるだけでなく、その弊害にも対処する。この誠実さは陽介の仕事に対する誠実さであり、ポリシーでもある。経営には全くの素人だった自分はこうして、経営者としてのあるべき姿を彼の背中で学んできたのだ。                     
 人間性には多少疑問は残るとしてもと胸の中で毒づきながら、猛は夜の闇に目を凝らす。 

 たとえどんな寒風が吹きつけようと、怯む事なくあの広い背中の後を追いたい。特徴のある硬質な足音を聞きながら、永遠にこうして歩いていられたらと切に祈った。 

「それで、お前。実際問題蔵元に全部キャンセルされて、どうするつもりだ。利き酒会は中止にするのか?」
 街道添いの街灯が増え、飲食店に出入りする観光客で夜も賑わう界隈にまでさしかかり、陽介の足が次第に失速する。猛はごく事務的に訊ねられ、跳ねるように駆け出した。


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