「向かい風を行く」
第五章

向かい風を行く 46

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「……えっ?」
美貴は咄嗟に顔を上げた。
だが、そんな甲斐の当てこするような物言いと冷笑は、
すぐに寂しげな苦笑になって消え失せた。
「ヨシキさんも、今日は手筒やるんですよね」
甲斐は夕闇迫る参道に視線を移して呟いた。
両脇には柵で仕切られた観客席が設けられ、既に人垣もできている。
「まあ、あんな事故の後だしな。俺は筧さんに片手手筒に変更させられたんだけど」

片手手筒は、甲斐達新入りや筧などの年長者が奉納する
手筒花火より丈も短く、筒も細い、
手筒花火は大の男が両手両足、渾身の力で支えなければできないが、
片手花火は文字通り、片手だけで打ち上げる。
もう五年も手筒花火を奉納してきた美貴には、子供用にしか思えない。
物足りないと筧に訴えたものの、豪胆に見えて繊細な筧に一言で却下された。

「気をつけて」
美貴は不満をぶつけたが、甲斐が恐い顔で諌めてきた。
それでも美貴は不敵に笑んで、甲斐の胸を拳でトンと叩いてやる。
「お前もな」
「はい」
涼しく笑った甲斐と目と目を交わし合い、
これから奉揚が行なわれる参道に二人で自然に視線を向けた。
 
祭りの定刻が近づくにつれ、境内の外灯がひとつずつ消されいく。
掃き清められた参道も左右の人垣も雑木林も蒼いひとつの闇になる。
美貴はまっすぐ前を向いたまま、甲斐の腕を掴んで言った。
「お前も今日は男になれ」
誰よりも豪胆で勇壮な花火をぶち揚げてみせろと命じる美貴に、
甲斐は力強く頷いた。
美貴はそのまま踵を返し、甲斐とともに青年団が集う拝殿へ移動した。


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