「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 44

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美貴は背中から甲斐の手を払い退けつつ一喝した。
助手席ではなく後部席。
本当にタクシーだ。でなければ、国会議員の先生を送迎する秘書。
あまりに自然にされた行為に一気に現実に引き戻され、
一瞬で頭も胸も冷えていた。
 
それでもこれが自分に対する正直な距離感なのだろう。
美貴は一人ではしゃいでいたのが馬鹿みたいだと、打ちのめされた気分になった。
尻尾を振ってじゃれ寄って、突き飛ばされた犬のようにみじめだった。
美貴は無意識に肩を落として息を吐き、助手席のドアを勝手に開ける。
憤然として助手席に乗った美貴を不思議そうに眺めたあと、
甲斐も運転席に乗り込んだ。

「ヨシキさんの家まででいいですか? その前に寄りたい所とかあれば行きますけれど」
「いいよ、大丈夫だから。家までで」
甲斐に優しく聞かれても、美貴は邪険に答えたきり、侘しく口を閉ざしていた。
一歩でも近づけたなどと歓喜したのは思い上がりだったのか。
それとも勝手な期待だったのか。
だが、突き放されてこんなに傷つく理由は何なのか。

美貴はその理由という名の塊に触れかけて、
火傷しそうな熱と痛みにはっとして手を引く自分を意識の隅で感じていた。
けれど、そんな自分も甲斐の姿もいっそ全部締め出したくなり、
車窓の外を無理やり眺め続けていた。


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