「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 43

 ←向かい風を行く 42 →向かい風を行く 44
翌日の朝、約束の十時までに退院手続きを済ませ、
そわそわしながら正面玄関を出て行くと、駐車場で片手を上げる男がいた。
すらりとした長身で腰の位置が高く、頭が小さい九頭身のモデル体型。
遠目に見ても、ひと目でそれが誰だかわかる。
甲斐の側には日本一高価な国産車。車のボディはシルバーだ。

運転する時の習慣なのかもしれないが、今日はフレームの細い眼鏡をかけている。
「ヨシキさん」
甲斐は駐車場から前まめりになって駆けて来た。
だが、その手にも足にも顔にも火傷の痕が生々しく残っている。
「お前……。大したことないって言ってたじゃないか」
美貴は甲斐の頬の赤くただれた皮膚に指をそっと近づけ、
茫然として訴えた。

それなのに当の本人は、
「こんなの病院で軟膏塗られて終わりでした。それよりヨシキさんの方こそ」
と、話を終わらせようとする。
「だって、痕になったらどうすんだよ」
「痕にはなりませんよ。ちょっと日焼けしすぎた程度の火傷です。
それよりヨシキさんこそ……」
甲斐は美貴の杞憂を意に介さずに一蹴し、美貴の頭の上から足先まで視線でゆっくり
なぞり出した。
「……痛いでしょう。こんなに全身ただれたら」
「痛くねえよ。鎮痛剤もらったし」
包帯を巻かれた箇所の多さに、甲斐は圧倒されたようだった。
沈痛な面持ちで黙り込み、美貴をじっと見つめてきた。
互いに強がりを言い合って、いつのまにか互いをかばい合っている気がしていた。

「早く車に乗って下さい。あんまり日に当たるのも良くないですから」
甲斐は美貴を先導するように駐車場へと歩き出した。
眼鏡をかけた今日の甲斐は、いつもより大人びて見えていた。
美貴は伏し目がちに「……うん」と言い、広い背中の後を追う。
少し離れて後ろを行く。
横に並んで立てない気がした。後ろが良かった。顔が見えない方がいい。
目が合えばきっと挙動不審になるという確信が徐々に芽生えていたからだ。

だが、ここは、やはりありがとうと言わないと。
それとも心配かけて悪かったと、先に謝るべきなのか。
筧や仕事仲間が相手なら、咄嗟にできる挨拶すら、考えなければ出てこない。
早く何か言えよと急かす自分の声がさっきから頭の中で響いているのに、
言葉が堂々巡りするだけで手も足も出なかった。

やがて、先程立っていた車の前に到着し、
甲斐がブランド物のキーホルダーをつけた鍵を運転席のドアに向けた。
ロックが外される音がして、ぎこちない笑みを浮かべて言う。
「あの、……じゃあ、乗って下さい」
「……ああ、うん。サンキュ」
しかも遠慮がちではあるけれど、促すように美貴の背中に触れてきた。
それだけでまた心臓がぎゅっと縮み上がり、
どっと汗が噴き出した。

甲斐の掌が背中に当たっている。
こいつ、俺に触ってきたよと、胸の中で壊れたようにくり返していた時だった。
後部座席のドアが甲斐の手で開かれた。
「何でだよ! お前は俺の運転手か!」


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【向かい風を行く 42】へ  【向かい風を行く 44】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【向かい風を行く 42】へ
  • 【向かい風を行く 44】へ