「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 42

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「お前、また。何言って……」
美貴は空笑いを響かせながら狼狽した。
ついさっき電話の良さをあらためて噛みしめたばかりだが、今度もやはり
電話で良かったと思ってしまう。
きっと不審がられてしまうほど、顔が真っ赤になっている。
今のはきっと社交辞令の延長だ。
特別な意味など何もない。
美貴は火照った頬を手ではたき、落ち着けと自分に言い聞かせた。

明日は平日で、しかも退院時間も午前中。親も友人も仕事がある。
送迎が必要なほど重症者でもない以上、休みを取らせるまでもない。
だから退院手続きも一人でする。そして一人で帰宅する。
当然のことだと思っていた。
とはいえ皆には平気を連呼したものの、腹の中では少し寂しい。
心細さを覚えていた。
あれほどの爆発に巻き込まれ、焼死しかけたせいなのか、心がグラグラ揺れるのだ。

それを甲斐は見抜いていた。
甲斐がわかってくれていた。
美貴は伏し目がちになりながら、かけてもらった優しい言葉を噛みしめる。
この声を、口調を反芻していたら、胸の辺りがぽかぽかしてきて満たされる。

「だけど、お前だって火傷ぐらいしてるだろ」
甲斐に迎えに来て欲しい。
けれど、自分は身体中に水泡ができたほど軽度の火傷を負っている。
入院したのは吹き飛ばされて頭を打っていたからだ。
甲斐だって入院とまではいかなくても、きっと怪我はしているはず。
それなら、こんな我儘なんて言えないと、美貴は声のトーンを低くした。

『僕は大丈夫です。明日も普通に学校行こうと思ってました』
「本当に……?」
『だから車で行きますよ。病院からヨシキさんの家までは少し距離があるでしょう?』
そうなのだ。
入院したのは救急患者の受け入れを承諾している総合病院。
隣町の郊外だ。
この身体中包帯で巻かれたフランケンシュタインのような姿では、
バスや電車は乗りにくい。
だから、タクシーで帰ろうと思っていたのだ。
多少の金はかかっても。

「ペーパードライバーじゃねえだろうな。よく乗るの?」
『割と』
「どうせ免許取った記念にとかいって、車買ってもらったんだろ。
お坊ちゃま」
「まさか。親の車を借りてるだけです。自分のなんか、ないですよ」
軽口をたたいた美貴にも、甲斐は生真面目に返答する。
相変わらずの一問一答形式だ。
美貴が思わず吹き出すと、つられるように甲斐の吐息もほころんだ。

「それなら明日の朝。退院の手続きとか全部終わるの十時ぐらいだけど。
来れるか? お前」
『わかりました』
「病院の正面玄関出た所でLINEするから」
『はい』
じゃあ、と言い合う声がどことなくぎこちない。それでも耳に心地良い。
その後もいつまでも切ろうとしない甲斐のせいで、美貴の方から通話を切った。
とても静かに、ゆっくりと。

明日は甲斐が迎えに来る。
車のハンドルを握る甲斐の隣に招かれる。
美貴は携帯を握りしめて胸にあて、甘い吐息を吐き出した。


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