向かい風を行く 39

 05, 2017 06:50
「じゃあ、俺が試し打ちの点火する。皆、もうちょっと下がってて」
煮え返るような腹立たしさが顔にも口調にも出てしまう。
わかっていてもどうすることもできないまま、
美貴は手筒花火に点火する着火棒に火を点けた。

試し打ちには新人が作ったスペアの花火が用いられる。
彼らがちゃんと手順通りに作製したのか確認する為、
リハーサルでは新入り達のスペアの花火に青年団の先輩陣が着火する。
そして問題なければ、本番用の手筒花火を祭の当日、
新人自身が奉納する。

美貴は甲斐を始め、藤木ら新人全員退いたことを確認し、
補助柵に立てられた手筒花火の筒の下に着火棒を差し込んだ。
と、同時に、鎮守の森の薄闇を目も眩むような閃光が切り裂き、
地響きとともに爆音が轟いた。美貴は身体がふわりと浮くのを感じた直後、
猛烈な熱と風圧で数メートル近く飛ばされた。

「ミキ……っ!」
「ヨシキさん!」
悲鳴じみた声が時間差で耳に届き、
誰の声ともつかない声と竹筒が弾けて燃える音がする。
しかし、仰向けに倒れた拍子に頭と背中をしたたかに打ちつけて、
呼吸ができなくなっていた。
 
暴発した手筒花火は足元で赤々と燃え盛り、
つんざくような爆音とともに何度も爆発をくり返している。
そのたび炎は巨大化し、上へ下へと渦巻く炎が地を舐めるように迫ってきた。
このまま炎に巻かれて焼け死ぬのか。
朦朧とする意識の底、死の一文字が点滅していた時だった。
両脇に腕を差し込まれ、巨大化した炎から地面に背中を擦られるように
引き出された。

「……な、えっ……?」
美貴は微かに目を開けた。しかし、全身から立ち昇る白煙を誰かが上着で叩き消し、
バケツの水をぶっかける。
「水、水っ! 早く! もっと水……っ!」
怒号のように叫ぶ男を霞む視界に捉えた刹那、美貴は意識を失った。


手筒の暴発から助け出されるまでの間、
すべてがスロー再生されているかのような妙に遅くてゆるい時間に思えていた。

だが、実際には数分の出来事だったらしい。
火の手が上がった瞬間に、甲斐が炎に飛び込んでいたと、
救急搬送される美貴に付き添ってきた筧が言った。
「本当に、この程度で済んで良かったよ」
処置室から大部屋のベッドに移った美貴の枕元で、筧は悲痛に顔を歪めていた。
それでも、幸い火傷は首や顔など服から出ていた箇所だけだ。
しかもどれも軽傷で、医者にも痕にならずに済むだろうと言われている。
ただ転倒した際、頭を強く打った為、今夜一晩経過入院する手筈になっていた。

「やっぱ、俺が変だと思った時点で外しとけば良かったのに……。
本当にすまない。全部俺の責任だ」
筧は筒の細さに気づいていながら、点火させてしまったと、責任を感じているらしかった。
だが、美貴自身は通常サイズの範囲内だと思っていた。
「でも、俺は変だと思ってなかったし。
最終的には俺の判断で点けたんですから、筧さんのせいじゃないですよ」
美貴はあっけらかんと笑って筧を慰めた。
ベッドサイドには着替えを持って来た美貴の母や青年団のメンバーもいる。

なのに、あの火の中に飛び込んでくれた男の姿は見られない。
美貴は帰宅する彼らを正面玄関まで見送ると、天井灯も消された待合室に立ち寄った。


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ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
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