「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 38

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榊原の甲斐に対する気遣いは、
バイトのアシスタントに対する好意を既に越えている。
単刀直入に切り出すと、榊原は間髪入れずに断言した。
『好きだよ。ミキ君が言う、そういう意味で』
抑揚のない口調には、どこか挑戦的な響きがあった。
思わず息を呑んだ美貴の鼓膜を、榊原の含み笑いが震わせる。

『だけど、甲斐は今、ノンケに不信感だらけだし。ミキ君よりは俺の方が有利かも』
「えっ……?」
『ゲイにはね。やっぱりゲイじゃない人間は脅威でしかないんだよ。
ノンケにはゲイが異質な存在で、脅威になるのと同じでさ』
ミキ君にはわからないかもしれないけど。
榊原は最後に独り言のように呟いて、何の前触れもなく通話を切った。
まるで話し合いは無用だと、
無意味なんだと言わんばかりの切り方だ。
美貴は力なく腕を下ろして携帯を切り、筧と立ち話する甲斐を見た。
 
同じ新入りの仲間の藤木達からも距離を取り、何事もなかったようにそこにいる。
そのほんの少しの距離感が、榊原が言うような『ノンケ』を見限った証であり、
甲斐のささやかな主張のように美貴には見える。
甲斐もまた、所詮ノンケにゲイの気持ちはわからない。
今度のことで、もう懲りた。
だから、まともに話もしようとしないのか。
美貴は肩をそびやかせながら境内に戻り、一人黙々と試し打ちの準備をする。
 
甲斐がこちらをゲイじゃないから拒絶するというのなら、
こちらがゲイだからという理由ひとつで拒否することと同じだろう。
それの何が違うのか。
今すぐにでも問い質したい衝動にかられつつ、
騒ぎを大きくしないよう、今は黙っているしかない。
美貴は無意識のうちに顔を背け、甲斐を視界から閉め出した。


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