「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 37

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夕映えの空に雲がたなびき、
拝殿の屋根の飾り金具も西日に眩く照り映える頃。
日が暮れるまで祭りの準備に追われていた町内会の人々もはけていき、
森閑とした境内には、
筧と美貴と甲斐を含めた数人の新人だけが残っていた。
 
新人は祭りの当日までに予備を含めて手筒花火を数本作る。
今日は夜を待ってのリハーサルで、
その内の一本に点火して、火花の出方や勢い等を確認する。
その上で場合によっては予備の花火の火薬の量や配合を最終調整しなければならない。
筧と美貴は花火を鉄の補助柵で立てて固定し、新人達にはバケツに水を用意させた。
「試し打ちの順番は?」
「藤木、東、宮内、坂下、甲斐の順番です」
美貴は残りの三本に貼られた半紙に書かれた名前を見ながら筧に答える。
筧も柵に立てられた藤木の花火をしげしげと見た。

「なんか細えな、こいつの花火」
「そうですか?」
筧は麻布や荒縄の巻きが足りないだろうと訝った。
だが、美貴には他の筒と相違なく見えている。
と、その時、コートの内ポケットで携帯が鳴り、美貴はその場を離れて電話に出る。

『ミキ君? あー、俺』
「榊原さん?」
美貴は反射的に周囲を見渡し、甲斐の姿を確認した。
『甲斐はどう? ちゃんとリハ出てる?』
「大丈夫ですよ。挑発する奴もいますけど、筧さんが庇ってくれてるし」
美貴が返事をするやいなや、榊原の安堵の溜息が聞こえてきた。
美貴は人目を避けて、拝殿裏まで移動した。
「……っていうか、榊原さん。マジで甲斐のこと好きなんですよね? 
そういう意味で、なんですけど」
拝殿裏の杉の幹にもたれかかり、『そういう意味』でを強調した。
無意識に語気が荒くなっていた。
まるで喧嘩でも売るように。


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