「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 34

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「それじゃ、筧さん。甲斐と美貴君のこと。
どうぞ、よろしくお願いします」
「わかりました。大丈夫です。二人の事は俺がちゃんとしますから」
力強い筧の言葉に榊原が安堵したように、ほっと頬をゆるめている。
そのまま席を立った榊原と筧が応接室を出て行くと、
甲斐も黙って腰を上げた。
だが、美貴は先回りしてドアの前に立ち塞がり、甲斐の退室を遮った。

「お前。なんで電話出ないんだよ」
美貴は憮然としている甲斐を睨めつけ、問い詰めた。
たった数日で顔まで違って見えるほど、眼差しも、まとう空気も荒んでた。
「何か俺に言いたいことがあったから、黙ってるんだろ。違うのか?」
迫る美貴に甲斐は横目で一瞥をくれ、聞こえよがしに失笑した。
「別にないです。……言いたいことなんて」
「じゃあ、なんで避けてんだよ」
「……避けてません」
「避けてるねえわけねえだろう。今日だって一回も俺の顔、見ないくせに」
 
加速度的にイライラが増し、美貴の語気も荒くなる。
思わず掴みかかりそうになりながら拳を握って堪えていると、
甲斐が顔を背けたままで苦笑する。
「なんか、あんまり予想通りの反応すぎて。……全部、馬鹿馬鹿しくなったっていうか」
「予想通りって何が」
「同性愛だ、ゲイだ、ホモだってわかると皆。
やっぱり、こうなるんだってわかったら、なんか……」
言いながら俯いた横顔に乾いた笑みを貼りつかせている。
そんな甲斐の顔つきも声音も口調も何もかも、
見ても聞いてもそのたびに、胸が抉られるようだった。
美貴の脳裏にも甲斐を揶揄する人間の、加虐の愉悦に綻ぶ顔が浮かんでいた。

「馬鹿馬鹿しくなって、嫌んなったか? 俺のことも」
それでもぶつけるように言葉を投げた。
すると、ようやく甲斐が美貴の方へ目を向けた。
あのおぞましい顔をした連中と自分までひと括りにするのかと、美貴は眼差しで訴えた。


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