向かい風を行く 33

 29, 2017 06:40
「……えっ?」
「美貴君もファミレスで一度会ってるはずだけど。
甲斐と同じ専門学校に通ってる石橋さん。
最初は自分もアシスタントにして欲しいって言ってたのが、つきあってくれになってきて。
その子が、だんだんストーカーっぽくなってきて。
警察に通報したこともあったんだ。
これまでもタイプの男がいたら、とりあえず飛びつくとか。
自分にメリットがありそうな相手だと思ったら、食いついてくるとかね。
相手の気持ちは二の次、みたいなところがある子みたいだね」
榊原は驚愕する美貴を眺めつつ、あえてなのか、おどけるように首をすくめて眉を下げた。
石橋も警察に警告されてからは、さすがに姿こそ見せなくなっていた。
けれど、直後に広まったのが例の噂だったらしい。

「その話。甲斐を取り合ってるのが僕と美貴君だって聞いて、
すぐにピンと来たんだよ。
前に僕が甲斐を寿司屋に連れていった時、
美貴君がすごく羨ましがって、コメントしたSNSあったよね?」
「ああ、……はい。覚えています」
甲斐が自分の誘いは断るくせに榊原ならいいのかと、腹が立ったせいだろう。
鮮明に記憶に残っていた。
「石橋さんなら僕のSNSも交友関係も全部チェックしてるはずだから。
あれを見て、美貴君と俺が甲斐を取り合ってるって勘違いしたんじゃないかって。
それで自分はフラれたんだって決めつけて、
腹いせに甲斐を攻撃してるんじゃないかって気がしてね。
ちょっとカマかけて、彼女に聞いてみたんだよ。」
 
すると、完全に認めるまでにはいかなかったが、
榊原に指摘された石橋の動揺ぶりが全てを語っていたらしい。
石橋が何の関係もない甲斐や美貴まで中傷したこと。
しかも傷害事件を起こしたとまで吹聴されては、こちらも黙っていられない。
榊原は直接石橋を呼び出して二人で会い、きつく釘を刺したという。

「今回の件では僕の不手際で美貴君にもご迷惑をおかけして、
本当に申し訳なかったです」
榊原は不意に立ち上がり、美貴に向かって頭を下げた。
美貴も甲斐も慌てて腰を浮かせたが、更に筧に対しても一礼する。
そうして再びソファに浅く腰をかけ、膝の間で手を組んだ。

「今、説明した通りの経緯ですので、噂は全部デタラメです。
甲斐はこの通り口下手ですから、
青年団の皆さんに、ちゃんと説明できないかもしれません。
ですから、団長の筧さんからも目を配ってやって頂けませんか」
榊原は筧にもう一度頭を下げたあと、美貴に身体の正面を向けた。
美貴君にも不快な思いをさせておいて、こんなことまで頼むのは、
こっちも気が引けるんだけど……。
美貴君も、こいつのこと頼みます」
「……榊原さん」
切々と訴える彼の横で、甲斐は息を呑んでいた。
多くの芸能人も顧客に持つ多忙なメイクアップアーティストが、
自分のために時間を割き、神社にまで同行し、
頭を下げてくれている。
そんな彼を甲斐は今、どんな気持ちで見ているのか。
美貴は茫漠とした不安の影が暗雲のように胸に広がるのを感じていた。

非は全部自分にあると言い、孤立する甲斐の盾になり、
守ろうとしている榊原に熱い目を向け、甲斐は身動ぎひとつしなかった。
落ち着いた榊原の対応を目の当たりにして美貴もまた、
自分の器の小ささを嫌というほど痛感した。
榊原に比べたら、自分なんか癇癪持ちのただの子どもだ。
大人じゃない。
次第に視線を上げられなくなり、美貴は硬く押し黙る。


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ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
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