「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 31

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噂が出回り始めてから、甲斐に避けられてしまっている。
拒否されていると悟った美貴は、甲斐が置かれた状況を危惧する思いが、
不安が別の憂苦になっていた。凍えるような心許なさに変化した。
背中を向けられ、置いていかれたかのような、
焦りと懸念が腹の底からしんしんと胸に這いのぼり、
美貴を無口にさせていた。

「ミキも言いたい放題言われてんなあ。
お前が甲斐にフラれて刺したって聞いて。吹いたぞ? 俺は」
筧は神社の境内に張られた簡易テントの下で美貴を迎え、苦笑いして手招いた。
けれども美貴には軽口をたたく気力もない。
「もう俺が甲斐を刺したことになってんスか……」
折り畳み椅子を開いて筧の隣に座り、頭を抱えて溜息を吐いた。

今日は朝から青年団が全員集まり、祭りの通し稽古をしなければならない。
当然甲斐も来る予定になっている。
境内では集まってきた男達が談笑し、和やかな時間を過ごしていた。
しかし、筧のように噂を一笑に伏して終わらせる者もいれば、
藤木のようにここぞとばかりに嘲笑しようと待ち構えている者もいる。
いっそ今日は休ませてやった方がいいのではないか。
美貴は携帯を出して液晶画面を、ただ眺めた。
 
とはいえ、心配だからと言いながら、本当は自分が恐いのだ。
あれ以来、甲斐に避けられてしまっている。
その悪い予感が確信に変わりつつある。
ただの思い過ごしであって欲しいと願いながら、相変わらずメールひとつ届かない携帯を、
鞄に戻した時だった。
遠目にもスタイルの良さが際立つ二人の男が鳥居をくぐり、入ってくる。
「榊原さん……」
憔悴しきった顔つきの甲斐と、肩を並べて現れた彼に、
美貴は驚きの目を向けた。


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