「向かい風を行く」
第四章

向かい風を行く 27

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しかも噂されるのは美貴の周囲でだけ。
甲斐と同期の藤木に嘲笑混じりに訊ねられ、絶句したのが最初だった。

「ミキさん、知ってました? 甲斐ってマジでホモらしいスよ。
これまであいつに告った女。全部撃沈だったみたいだし。
マジあんんじゃねえのって言う奴とか、いたんスけど」
「……えっ?」
祭りの打ち合せを兼ねた青年団の飲み会で、藤木は勝ち誇ったようにうそぶいた。
瞠目したきり、声も出せずにいる美貴に藤木が更に耳打ちした。
「ミキさん、大丈夫でした? 正直口説かれたりとかあったでしょ?」
含み笑った藤木の目が異様な光を放っていた。
これで、公然と甲斐をいたぶる理由ができたとでもいうように。

「あー、なんか俺もその話聞いた。ホモが二人で甲斐を取り合って。
なんか傷害っぽくなったんだろ?」
美貴の右隣で呑んでいた同期の団員もビールジョッキをあおりつつ、
揶揄するように言い放つ。
「はあ……っ?」
ほぼ満席の居酒屋は学生達のグループやサラリーマンが談笑する声、
注文の品を運ぶ店員の声、威勢のいい板前の声が交差して、
同席する左右の藤木や団員の声さえも、聞き返さないとわからない。
心臓が一気に不穏に打ち乱れ、思考がまともに働かない。

「な、えっ? ……甲斐は? 甲斐は大丈夫だったのか?」
だとしたら噂の発端は、その甲斐を交えた傷害事件だったのか。
美貴は藤木の反対側に向き直り、飛びかかるように問いつめた。
「知るかよ、そんなの。そこまで全部聞かねえし」
美貴と同期の団員は急に怯んで語尾を濁し、鼻白むように美貴を見た。
結局、誰に聞いても詳細まではわからない。
埒が明かず、美貴は舌打ちしながら座を立った。
 
人のいない廊下まで来て甲斐の携帯を鳴らしたが、
何度かけても留守電メッセージに切り替わる。
夜遅くても構わない。すぐにでも電話するよう伝言を残し、
そのまま榊原に電話した。
だが、榊原も、
『なに? それ。誰がそんな馬鹿なこと』
と、驚きの声を上げた。


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