「ホワイトナイト」
第四章

ホワイトナイト40

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寒風吹きすさぶ旧街道で陽介がコートの衿を立て、冴えた夜空を見上げている。猛も白い息を吐きながら、夜道に佇む陽介に迫った。      
「ちゃんと説明してくれませんか」
 きっと、綾のカフェで房子の話を聞いた時点で、陽介の頭の中には蔵元達を裏で束ねる『誰か』が見えていたのだろう。凄むように言い放つ猛に、陽介はちらりと一瞥を寄越した。

「藤崎さんとこの主要銀行の筆頭株主は、芹沢製薬の会長だ」
 陽介はコートの内ポケットから煙草を取り出し、事もなげに答えて微笑む。唇に挟んだ煙草に火を点し、ひと息に吸って吐き出した。                    
「……えっ?」
「こういう過疎地の銀行なんか、株主の意向でどうにでもなるからな。例えば、自分とこのライバル会社への融資を銀行にストップさせて、ライバル会社の手形飛ばせて潰すとか」
 失笑混じりにつけ加え、陽介は伏し目に煙草を吸いつける。 
「大方、俺ん所と手を切れば、金はいくらでも貸してやるとか言われたんだろ。この年の瀬に貸し渋られたら、藤崎さんとこみたいな家族経営の蔵元なんか一発だからな。月末に手形の不渡り出して、年内には倒産だ」  
「じゃあ、本当に陽介さんへの嫌がらせの為に、芹沢会長が藤崎さんへの融資を銀行に断わらせたって言うんですか」

 市役所が企画した対談の場で、陽介が芹沢会長を怒らせた話は周知の事実になっている。 
 以前は確か綾さんが、ギャラリーでの展示販売を予定していた窯元から急遽出展をキャンセルされてしまっていた。房子は芹沢会長の嫌がらせではと案じていたが、図らずも彼女の不安が的中したということなのか。     

「他に考えようがねえだろう。別に俺達と蔵元の間に遺恨も何もねえんだからよ」
「だったら、他の蔵元さんが利き酒会をキャンセルしたのも……」
「この辺の企業は大なり小なり芹沢製薬の縁故か下請けだから。そういうしがらみに縛られた土地だと、芹沢会長みたいな有力者の一存でどうにでもなる。こんな風にな」       
「他人事みたいに言わないで下さい」      
 まるで恐れ慄く自分をからかうような陽介を、諌めてきつく睨みつけた。それでも一瞬おどけるように首を竦め、微笑の形に唇をたわめる。     

「でも。まあ、藤崎さんが口割ってくれて良かったよ。他の蔵元はみんな芹沢会長にビビっちまって、いい加減なこと言いやがるしよ」
「それだって、陽介さんが誘導尋問したからでしょう」    
 仕方がなかったことはいえ、藤崎の純朴な人柄を逆手に取った自分達に自責の念を感じないではいられなかった。しかし、陽介は相変わらず曖昧な微笑を張りつかせている。
「あの人は嘘がつけないからな」     
「藤崎さんが言ったって事が銀行や会長に伝われば、藤崎さんだって困るでしょう」   
「バレやしねえよ。俺とお前が黙っていれば」  
 暗黙の了解を促すように、陽介が肩越しに悪どく笑んだ。猛はむっと顔をしかめたが、陽介は苦笑しながら携帯灰皿で煙草の火を消し、頭をもたげる。


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