向かい風を行く 26

 22, 2017 07:29
ラーメン屋を出てからも、
甲斐に家まで送られながら、二人で競うように話をした。
甲斐は、十歳頃にはゲイの自覚があったと呟いて、明るい月夜を仰ぎ見た。
「僕は普通に結婚できないし、会社員だといろいろ厳しいじゃないですか。
なんで結婚しないんだとか、絶対に言われるし」
だから手に職をつけて、自立しようと思っていること。
それも、できれば地元を離れて開業し、
家族とも距離を置くつもりなのだと聞かされて、美貴は思わず目を剥いた。

「なんでだよ! だって、いい母ちゃんじゃねえかよ。なのに、そんな……」
息子を頼むと言い続けていた切なげな顔が脳裏に浮かび、
思わず声を荒げていた。
だが、祖父の代から国会議員だ。
実兄は父親の秘書になり、祖父の代からの選挙基盤を受け継ぐべく、
着々と準備をすすめている。後援会からの支持も信頼も厚いという。
それは甲斐のあの母親の気取った所がまったく、
それでいて品があって実直そうな人柄からも容易に想像する事ができた。

「あの家の次男は、どこかで美容師やってるぐらいの、
空気みたいな存在になれたら」
と、甲斐は夜空を見上げたまま清々しく微笑んだ。
『理想』の自分を語っていた。
美貴はそこまで考えなくてもいいんじゃないかと思ったが、
今度は口にはしなかった。
 
もしかしたら、同性愛者でなければわからない、
複雑な事情もあるのだろう。
それを思うと、安易に説教してはいけない気がして俯いた。
いつしか足取りも重くなり、
外灯もまばらな裏路地を進む二人には物憂い沈黙が流れていた。
 
甲斐もこんな風にあれこれ懊悩するうちに、無口になっていったのか。
初対面から寡黙だった気難しそうな少年を、
ちらりと横目で窺い見た時、甲斐もつられるように美貴を見た。
「でも、今日はすみませんでした。
なんか、こんな重い話。聞かせちゃって……」
「……えっ?」
眉をひそめて詫びる顔には自責の色が滲んでいた。
だが、美貴はすぐさま否定した。
「別に重いとか思ってねーよ。
俺に話して、お前が少しでも楽になれたらいいんだよ、それで」
むしろ、あるがままの自分にも、どうにもならない偏見にも真正面から向き合って、
自分が自分でいられる道を必死に模索しているのだ。
誰に何を言われても。
何もかも腹の中に収めたまま。
そんな健気な姿にも胸が熱くなっていた。

だから、甲斐の重荷を少しでも分け持てるのなら嬉しいと、
美貴は甲斐の強ばる背中を平手でバンと叩くなり、
そのままスタスタ前に出た。

今夜はなぜか柄にもなくクサイ台詞を垂れ流してしまっている。
自分が自分が気恥ずかしくなり、更に足を速めたが、
すぐに甲斐に追いつかれた。
薄闇の路地に重なる足音。
くすぐったそうに首をすくめた甲斐の軽い足取りが、美貴をいっそう照れさせる。
顔を伏せて歩き続ける二人の影を月明かりが濃く長く伸ばしていた。
 
だが、甲斐は同性愛者だと。
ホモだと吹聴する者が次々出たのはそれからすぐのことだった。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト

COMMENT 0

WHAT'S NEW?