「向かい風を行く」
第三章

向かい風を行く 23

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「だって今日、バイトないんだろう?」
尖った声が震えるほど、心臓がバクバクいっていた。
まだ息も微かに弾んでいる。
だが、それも慌てて走ったせいにしたかった。

甲斐に何も答えずに黙っていたのは拒絶じゃない。
一度に全部吐露されて驚いただけだ。
それだけだ。
お前を拒んだんじゃないんだと言いたかった。伝えたい。
その為だけに闇雲に甲斐を誘ってしまっていた。
 
それなのに甲斐はといえば息を詰め、
瞠目したまま、こちらを見つめているだけだ。
「……やっぱ何か、予定ある?」
美貴は顎を深く引き、上目使いに窺い見た。
答えようとしないのは断る理由を探している為なのだろうか。
自分なんかと二人で行くのは、気が重い。
相手が榊原ならまだ許せる。
榊原なら付き合いも長く、何より甲斐が指導を仰ぎ、尊敬している相手なのだ。
だからギリギリ許容範囲だっただけ。
自分なんか、重ねた時間の長さも重さも違うはず。
二人の間の沈黙が長くなるほど、美貴の中で刻々と不安要素が膨らんだ。

だとしたら、あきらかに口先だけだとわかるような、
言い訳だったら聞きたくない。
それならいっそこちらから甲斐に逃げ道を作ってやってやる。
バイトはないけど、他に約束があるからと、
いつものように答えてくれた方がいい。
ここで嘘をつかれるより、
作ってやった逃げ道を逃げていってくれた方が傷が浅くて済む気がした。
美貴は半ば諦めた。
返事がないという事が甲斐の本音だ、返事だと、
自嘲しかけた時だった。

「……はい。じゃあ」
という、おずおずとした声がした。
「えっ?」
美貴は弾かれたように顔を上げた。
その目の前で照れ臭そうに口元をゆるめ、甲斐が穏やかに笑んでる。
厚い雲から顔の前に射してきた光の筋が眩しいとでもいうように、
切れ長の双眸を細めていた。


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