「向かい風を行く」
第三章

向かい風を行く 22

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「これ、収納庫に持って行って帰りますね。ヨシキさんもお疲れ様でした」
「……あっ、そうか。そうだな。……ありがとう」
美貴はまだ自分の声が上擦るのを感じていた。
甲斐の一挙手一投足に反応し、身構えている。腰が引ける。
そんな自分を見下ろす甲斐の顔には、
深い諦念が浮かんでいた。

微笑みをたたえた口元に濃く染みついた寂寥感。
失望を無理やり飲み込んだような顔をして、甲斐は美貴に背を向けた。
その背中が刻一刻と遠ざかる。
こんなにも寂しい後ろ姿は見たことがないというほどの、
疲れた侘しい背中だった。
美貴はふいに我に返って瞠目し、夢中で後を追いかけた。

「おい、甲斐! 待てって……」
まだ何も甲斐に言っていない。
夜気で湿った裏参道の石畳を蹴る靴音に、呼び止める声が重なった。
なのに一人で勝手に答えを出してしまっている。
美貴は歯噛みしながら足を速め、悪い癖だと罵った。
「ヨシキさん……?」
驚いたように振り向く甲斐にあっという間に追いついて、
美貴は無意識にその肘を掴んでいた。
「ヨシキさん……」
幟を抱えた甲斐は、ただ目を丸く見開いて、
美貴の顔と自身の肘を掴んだ手を交互に何度も眺めている。
美貴は弾んだ呼吸を整えるために顔を伏せ、ゴクリと唾を呑み込んだ。

「……俺も行くよ」
「えっ……?」
甲斐の問い質すような視線と声音が降ってきて、顔にも胸にも突き刺さる。
頬も耳も火照ってくる。
それでも美貴は思い切って口にした。
「……で、今日は一緒に飯、食って帰ろ」
ぶっきら棒に言い放ち、甲斐が抱えた識を半分奪い取った。
美貴の靴音が止んだ途端、
夜空も星も参道脇の樹木もすべて、自分と甲斐を息を凝らして見つめている。
そんな静けさが戻っていた。


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