「向かい風を行く」
第三章

向かい風を行く 20

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青年団の間で甲斐の印象が悪いのは、わかっている。
甲斐の御目付役として、暗に自分も非難されているはずだ。
時には甲斐の単独行動に、バツの悪い思いもする。
それでも少しずつ話せるようになってくると、通じ合った気持ちの分だけ、
甲斐を大切にしたくなる。
自分が非難されれば済むだけの話なら、甲斐が嫌だと思うことは、
できれば無理強いしたくない。
指導は指導だ。矯正じゃない。
何かを伝える過程において相手を矯正までする権利はない。

「……ってか、お前ちゃんとしゃべれるじゃんか。なんでずっと黙ってたんだよ」
柄にもなく真面目に考え、
先輩面して話をしている自分が自分で気恥ずかしくなる。
美貴は薄ら笑いを浮かべつつ、空いた筒に幟を次々挿し入れた。
そして、程なく甲斐が背後で発した呟きが、
石畳の参道に硝子の破片がこぼれるように儚い音をさせて落ちていった。

「でも、俺。恋愛対象、男なんですよ。そういうすごく大事なこと。
言わずにいるっていう罪悪感。やっぱりいつもあるんです」
「……えっ?」
美貴は反射的に振り向いた。
言われた意味はわかるのに、恋愛対象は男だという印字された文字だけが、
脳裏に一列になって並んでいた。
驚きに声を消え入らせ、凍りつかせた視線の先。
参道脇の常夜灯に仄暗く照らされた長身の黒影がある。

「……マジで?」
美貴は思わず目を眇め、
見た事がないものを見るように眉間に深い皺を寄せた。
「だから、……人といると、だんだん疲れてくるんです。
女の子に付き合ってって言われても、何て言って断ればいいか、
わかんないじゃないですか。別にその子が好きとか嫌いとかじゃないんだし。
そういう時、必死に嘘ついてる自分がすごい嫌だし、疲れるし……」

訥々と話し続ける甲斐の声音は静かだった。
自嘲に近いゆるい笑みを浮かべたまま、幟を外す作業を続けている。
「だけど……、だからって、本当のことも言えないし」
甲斐は途中で手を止めた。
すごく大事なことだと、甲斐は言った。
それなのに、それを聞かせる相手の顔を甲斐は見ようとしなかった。
やがて屈めた背中をぐんを伸ばし、宵闇の空を仰ぎ見た。
「秘密って重いでしょう……? だから、たぶん口が重くなるんです。
その事だけは言わないようになんて。そういう器用なこと、できないなら……。
何にも言わずにいた方が楽ですから」

最後に甲斐が語尾を濁し、決まり悪げに目を伏せた。
疲れたような顔だった。
それでも美貴は一言も発することができずにいた。


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