「向かい風を行く」
第三章

向かい風を行く 17

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「だったら、お前もガンガン誘えばいいだろう。
百回に一回ぐらい、ついて来るかもしんねえぞ?」
筧は美貴に、愚にもつかない慰めを口にした。
「そこまでプライド捨てたくない」
筧の顔を恨みがましく睨みつけ、不貞腐れたまま背を向けた。
夕映えに染まる神社の境内に外灯が青白く点されて、
祭りの準備に追われる男達を墨色の影にした。
 
もちろん自分も誘えばいいことぐらいわかっている。
それなのに、誘っても悪い予感しかしなかった。
榊原の成功例があるだけに、
あの人ならOKで、自分はまだ甲斐に拒絶されているんだと、
再確認するだけになりそうで。
甲斐に弾かれてしまっているのだと、知るのはひどく恐かった。
知って落ち込むぐらいなら、このままの距離でいいとすら思ってしまうほど。

美貴がいじけてペットボトルのお茶を飲み、
手持無沙汰に携帯を見ていると、社務所に行かせた甲斐が戻って来た。
「サンキュ」
美貴は甲斐が宮司から貰ってきた紙垂を伏し目がちに受け取った。
続いて参道の両脇に杭を立て、その杭に藁縄を巻きつける。

「……で、この綱に紙垂を等間隔で張りつける。
演者が手筒花火を奉納する参道と、観客席を区別する結界線の
役割をするのが、この藁縄だ。
お前も祭の当日は、この参道で手筒花火を揚げるんだ」
美貴は独り言のようにボソボソと説明し、
藁縄に紙垂を貼る足元の甲斐を、ちらりと見た。
形のいい小さな頭が愛らしい。
黒髪の襟足にも、細い首から幅広の肩にかけての稜線にも、
無性に視線を惹きつけられる。そんな自分をどこかでやましく思っていた。
 
この後、甲斐はバイトなのか。
自分が飯に誘っても、いいよと言ってくれるのか。
榊原には渋々だろうと応じたように。

美貴が悶々としていると、ややあって筧が呼びに来た。
「悪ィけど、そっち終わったら、こっち手伝ってくんねえか?」
祭りに合わせた神社幟を裏参道に立てて欲しいと頼まれた。
快く応じた美貴は携帯で時間を確認し、
甲斐の肩を笑顔で叩いて労った。

「じゃあ、今日はもう帰っていいよ。お前、バイトあるんだろ?」
やはり考えるだけ考えて、それでも言い出せないままだった。
なんだか気になる女子を誘いたくても誘えない。
どうせ高嶺の花だしと、最初から諦めてしまっているように。
筧に言われた神社の幟を立てるため、
裏参道に向かう途中、苦笑とも自嘲ともつかない笑みが湧いてくる。


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