「ホワイトナイト」
第四章

ホワイトナイト39

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「だけど、この年の瀬に急に銀行さんに貸し渋られたら、藤崎さんだって断れませんよ。だって、銀行に融資してもらわないと、来年の仕込みに使う原材料も買えなくなってしまうんですから」
 石のように黙りこくる藤崎に、陽介は世間話の延長のように会話を仕掛ける。
 しかし、陽介の口から『貸し渋り』という台詞が出た途端、藤崎はハッとしたように目を上げた。猛も思わず横に跳ね退き、隣の男をまじまじ見つめる。そもそも藤崎酒造に来る前に、陽介とまわった蔵元からは、
「忙しくて準備できない」    
 だの、
「他のイベント依頼とブッキングした」
 だの勝手な理由を振りかざされ、門前払いされてきた。
 そのたび猛は憤慨したが、陽介は糾弾すらせず、飄々と含み笑っていた。その陽介の豹変振りに猛は言葉を失うしかない。けれど、藤崎酒造へ来る直前、
「藤崎さんの所は俺が全部話をつける。だから、お前は一切口を挟むなよ。世間話もすんじゃねえぞ」             
 と、言いつけられている。
 そのため浮かしかけた腰を据え、唇を引き結んで堪えていた。  

 陽介は落ち着きをなくした猛を諌めるように睨んだが、藤崎を向き直った時にはもう既に慈愛に満ちた微笑を満面にたたえている。猛はむしろ微笑みながら藤崎を攻略していく陽介に、慄然として鳥肌を立てた。

「陽介さんには利き酒会にも誘ってもらって。こんな小さい蔵元なんかに親身になって下さって本当に感謝しています。でも、陽介さんがおっしゃった通り、儂らは銀行さんには逆らえんのです。許して下さい……」  
 藤崎は肩を震わせ、男泣きに泣きむせびながら訴え始める。
 そうして手にした帽子をくしゃくしゃにして、真摯に許しを請いてきた。猛は項垂れている藤崎の白髪頭を為す術もなく眺めるしかない。                      
「わかりました。今回、利き酒会に参加して頂けないのは残念ですが、藤崎さんとはこれまで通り、おつきあいさせて頂きたいと思っています。ですから、どうぞ顔を上げて下さい」
「……ありがとうございます、陽介さん」
 陽介は藤崎の肩を優しく撫でて宥めると、猛に目顔で退室を促す。反射的に鞄とコートを抱えて立った猛に続き、陽介も粛々と腰を上げ、二人で応接室を後にした。   

「陽介さんも彦坂さんも、本当に申し訳ございませんでした……」
 玄関先まで見送りにきた藤崎が、腰をふたつに折るようにして陳謝する。しかし、猛は蔵元達もおそらく誰かの『被害者』なのだと、薄々感じ取っていた。 


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