「ホワイトナイト」
第一章

ホワイトナイト3

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「……で? 今日は何の用件だ?」
 陽介は椅子の背もたれに身体を預け、手元の書類をめくりながら猛に訊ねた。       

 顎先から耳にかけての優美なラインと、奥二重の涼やかな双眸。形のいい唇の端正な印象に変わりはないが、人物があまりに違いすぎる。もともと無口でぶっきらぼうではあったけれど、こんなに横柄な態度をとられたことは一度もなかった。
 それとも、 
『彦坂旅館の跡を継いだ彦坂猛』 
 の、自己紹介では幼馴染みの彦坂猛とわからないのか。
 猛は激しく瞳を戦慄かせ、無意識のうちに拳を握りこんでいた。

 もちろん子供の頃に別れたきりではあるけれど、小柄で骨格からして華奢な体型。 
 いかにも「気が強そう」だと言われてしまう吊り目がちな丸い目も、右の目尻に縦に並んだふたつの黒子。小さい口に尖った顎の小造りな印象はさほど変わっていないはず。
 会えばすぐに思い出してもらえると、自惚れていただけなのだろうか。二重三重にショックが重なり、茫然自失で立ち尽くす猛に、さらに陽介が追い打ちをかけてくる。        

「だから、用件はって聞いてるだろう」        
 と、くり返し、顔の前の書類の縁から目だけをちらりと覗かせていた。  

 猛は思わず浅く息を吐き、仕方がないと目を伏せる。
 これだけ話しても思い出してもらえないなら諦めよう。だったら初対面の仕事相手として礼を尽くし、これから信頼関係を築きあげていけばいい話だと、猛は自分に言って聞かせる。
「ですから、今日はご挨拶に……」 
 と、 言葉を重ね、無理やり笑んだ時だった。
「挨拶は聞いた。で? こっちは優雅な老舗旅館の若旦那と世間話してる暇なんかないんだ。用が済んだら帰ってくれ」
 読んでいた書類でデスクを叩き、陽介がさらに語気を強くした。
 途端に何かが猛の中でぷつりと切れる音がして、頬も唇も引きつってくるのを感じていた。陽介にとって自分は初対面のはずなのに、どうしてここまで邪険にするのだろう。     

「こっちだって別に暇でも優雅でもありませんよ!」 
 猛は自分でも驚くような声をあげた。     
「女将が倒れてずっと赤字で、倒産寸前のガタガタ旅館を継いだんです! 僕だって若旦那なんて呼ばれて、いい気になってる訳じゃないんですから!」 
 真っ赤になって啖呵を切り、肩で息を喘がせていると、陽介がおもむろに立ち上がり、猛の前まで進み出た。

「成井社長……」
「いい度胸だな。その倒産寸前のガタガタ旅館を建て直すために、うちのファンドに投資の依頼に来たんじゃないのか?」   
 皮肉に頬を歪めながら、目の前の男が失笑した。
 優れた長身の彼と向き合い、その表情を伺い見るには、小柄な猛は顎を垂直にしなければならなかった。
 しかも、肩や胸にはしっかりとした厚みがあって、頭も顔も小さい見事なまでの九頭身。どこか古風で潔さを感じさせる切れ長の目尻と抜群のスタイルに圧倒されて、猛はゴクリと唾を呑みこんだ。

 ましてや今日は陽介が言った通り、顔合わせが済んだら融資の相談をするつもりでいたことも事実だった。
 たとえ先に無礼を働いたのは陽介の方でも、自分が同じ轍を踏んでいいはずがない。そのうえ今の陽介は、決して好意的とは言えない取引先の代表なのだ。 




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