「向かい風を行く」
第三章

向かい風を行く 14

 ←向かい風を行く 13 →向かい風を行く 15
「火薬の調合まで自分達でするんだな」
 
その週の日曜に、榊原は神社まで作業の見学に来て感嘆した。
案の定、榊原は手筒花火の神事の話も甲斐に聞かされていなかった。
興味を示した榊原に美貴が誘ってやると、
ふたつ返事で訪ねて来た。

「火薬の調合は新人にはさせませんけどね」
美貴は答えつつ、和紙の上で山にした火薬の粉に銀色の鋳鉄さてつを混ぜ込んだ。
この鋳鉄は火が点くと、線香花火のように繊細に枝分かれしながら
破裂して、火の粉を散らす性質を持っている。
調合は目分量だが、鋳鉄の量が多くなるほど、舞い散る火花の量も増え、
見た目も派手な花火になる。
「鋳鉄は大体こんな感じの色になるまで混ぜたら完成」
「わかりました」
甲斐はメモを取った後、和紙の上で調合を済ませた火薬を写真でも記録した。
最後にこれを麻布と縄を巻いた竹筒に詰め、
蓋をしたら花火作りは終了だ。

「お前。ちょっと持ってみろよ」
美貴は甲斐に指示をした。
筒を右脇に抱え上げたら、筒を垂直にして右足を前に出し、腰を落とす。
筒の長さは約百二十センチ。総重量は二十キロ。
それを中腰で約三分間。
花火が燃え尽きるまで抱え続けなければならないのだ。

甲斐が試した後、榊原も挑戦した。だが、
「これはヤバイ。かなりキツイ」
と、成人男子がぼやくほど、完成品は見た目以上にズシリとくる。

「だけど、ミキ君は毎年やってるんだろ? 
そんなに華奢で小柄なのに、筒のサイズは全員同じなの?」
「同じですよ。でも、俺。醤油醸造の蔵人なんで、チビでも結構筋肉あるんです。
でかい柄杓でプールみたいな樽ん中の醤油かき回したり、
醤油瓶をダースで運んだりしますしね」
美貴はTシャツの袖を肩口までまくり上げ、自慢の上腕筋を膨らませた。
「本当だ。アスリートみたいな筋肉してる」
榊原は、美貴の引きしまった二の腕を揉みながら驚きの声を上げた。
すると、榊原と入れ替わるように、
それを黙って眺めていた甲斐まで不意に掴んできた。
警察の監察医が検分でもするように。
涼しい顔で力瘤を揉みしだく少し卑猥な甲斐の手を、
美貴は凝視したまま固まった。

今までこちら側から何とかして甲斐の中に入ろうと、
じたばた足掻いてきたくせに。
甲斐の方から思いがけなく侵入された瞬間に、美貴の思考は停止した。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【向かい風を行く 13】へ  【向かい風を行く 15】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【向かい風を行く 13】へ
  • 【向かい風を行く 15】へ