「向かい風を行く」
第二章

向かい風を行く 10

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着火後の手筒花火の竹筒は七百度を越える熱を発するが、
演者は燃え尽きるまで、
手筒を脇に抱えていなければならない。
そのため麻布と荒縄を筒に何重にも巻き、太くして、演者の身体を守るのだ。
だが、これを初心者がやると、大抵どこかしら不備がある。

「駄目。やり直し」
美貴は甲斐の作業を中断させ、
巻きつけられた荒縄と筒の間に指を噛ませて言い放つ。
「こんな風に縄の間に指が入るようじゃ、全然駄目。
最悪、点火したら竹が膨張して暴発する事もあるんだぞ?
それを防ぐ意味でも、もっときつく巻くんだよ」
厳しいようだが命に関わる作業だった。
軍手をしていてもマメがつぶれ、甲斐の掌に血が滲んだが、
美貴は容赦しなかった。
甲斐も何度チェックされても愚痴もこぼさず、粛々と作業を続けている。
その後、ようやく及第点が出せた頃には甲斐は全身汗まみれ。
荒縄には血の跡が点々と残っていた。

「お疲れ」
水道の蛇口を全開にして頭を突っ込み、汗を洗い流した甲斐にタオルを差し出した。
「……ありがとうございます」
「あと、手え出せ。絆創膏張ってやるから」
こうなる事を予測して用意してきたそれをポケットから取り出した。
「……大丈夫です。これぐらい」
「いいから座れ。化膿したらヤバイだろ」
甲斐は一瞬、照れたような困ったような顔をした。
それでも、怯んだ甲斐を顎でしゃくって境内の階段に座らせる。
その前に跪いて消毒薬をかけた後、
皮が剥がれた指の節にそっと絆創膏を張りつけた。

「……で、いつ切ってくれんだよ。俺の髪」
甲斐の手当てを続けながら、顔も上げずに美貴は言う。
頭の上で剣呑な気配が渦巻いていたが、明確な拒絶は返ってこない。
「じゃあ、いいよ。お前が切ってくんねえんなら石橋さんに頼むから。
俺、石橋さんに連絡先渡されてたんだよね」
嘘だった。
あの日、すっかり不貞腐れた石橋は、
ファミレスを出た後、美貴に見向きもしなかった。
髪を切らせて欲しいと言い出したのも単なる思いつきだったのか。
でなければ、たまたま自分のような童顔も石橋のタイプだったのか。
どちらにしても思い通りにならないと、
へそを曲げる女王様タイプだというのは、本当らしい。、
美貴も石橋がいくら美人でも、幼稚な女はタイプじゃない。

美貴が携帯をこれ見よがしに出した途端、
甲斐の眉がピクリと上下に引きつった。
じゃあ、そうしろと言われてしまえばそれまでだが、
この忌ま忌ましげな男の顔を見る限り、どうやらそれもなさそうだ。
美貴が上目使いに甲斐を見ながら微笑むと、
甲斐はそっぽを向いて歯噛みした。


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