「ホワイトナイト」
第四章

ホワイトナイト38

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 晩秋の宿場町が日暮れとともに闇に沈み、夜寒の旧街道では落葉が風に巻きあげられて、乾いた音をたてていた。  
 中山道でもこの辺りは飲食店や旅館が少なく、漆器や曲げわっぱなど工芸品を多く扱う店が多い地域にあたる。ほとんどの店が日没とともに店を閉めてしまうため、夜道を行き交う人影もなく、民家の軒灯だけが狐火のように浮かんでいた。

「……夜分にすみません。今晩は」
 出梁造りの軒下に杉玉を吊す『藤崎酒造』の格子戸を、猛が先に開けて入る。 
 店舗部分は広い土間に黒塗りの太い梁天井。店の棚には日本酒の瓶の大小が並び、漆喰壁には色褪せたビールや日本酒のポスターと共に『利き酒会』のポスターが何枚も張られていた。

「すみません。彦坂旅館の者ですが」
 真新しいポスターを複雑な思いで眺めながら、猛がさらに声をかけると、暖簾をはぐって男が一人で姿を見せる。白い作業着に白い角帽。ズボンの裾を長靴に詰めた初老の男は、縮こまるように肩をすくめて帽子を取った。

「お待たせしました。藤崎酒造の代表の、藤崎通雄と申します」
「彦坂旅館の彦坂猛と申します。今日は急にお邪魔ししまって、すみません」 
「いいえ。陽介さんにもご足労頂いて、こちらこそ申し訳ございませんでした」
 浅黒い顔に深い皺を刻んだ杜氏は頭を上げると、白髪頭に白い角帽を被り直した。憔悴の色が濃く滲む虚ろな目をした藤崎に、陽介はやんわり微笑みかける。

「そんなに緊張しないで下さい。何も藤崎さんを責めに来たんじゃないんですから」
「そうは言っても、もうパンフレットもポスターも全部刷ってしまっているのに、こんなことになってしまって。……本当に申し訳なくて」 藤崎は涙で声を詰まらせながら、顔をタオルで何度も拭いた。
「そんな顔をしないで下さい。今回のことでは、私の方に非がないとはもう言えませんので」  
 項垂れる藤崎の肩を叩いて励まし、陽介は藤崎に寄り添った。
 けれども、その慰めるような甘い口調と裏腹に、獲物を狙う猛禽類か何かのように、最後に鋭く眼差しを眇める。猛は不安に胸を疼かせながら、従業員に案内されて、応接室へと移動した。            

「今回、出展を諦めたのは在庫切れが原因だと伺いましたが」  
 藤崎とテーブルを挟んで正面に座り、陽介がおもむろに切り出して言う。 
 熱いお茶で喉を潤し、膝の間で手を組みながら前のめりになる陽介からは余裕のようなものさえ感じた。猛は陽介の隣でお茶をすすり、穏やかな微笑を浮かべる男をハラハラしながら横目にした。                                 


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