「向かい風を行く」
第一章

向かい風を行く 2

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神社の境内を出てからも、ノコギリを下げた美貴はもとより、
甲斐もずっと黙っている。
手筒花火てづつはなびは見た事あるのかなど、何でもない声かけすらできないのは、
甲斐が決して視線を合わせようとしないせいなのか。
裏山に向かう途中、今年の春から青年団の一員になった藤木が
前方から駆けてきて合流した時は、
気まずい空気から解放され、美貴は内心ほっとした。

「遅くなってすみません」
藤木は首を突き出すように頭を下げつつ、ニカッと真っ白い歯を見せた。
同い年の甲斐には、「よう」など曖昧に声をかけ、
すぐに美貴の隣を陣取った。
藤木が遅れる旨は事前にラインがあったので、美貴は鷹揚に頷いた。
甲斐と藤木に挟まれながら狭い路地を歩きつつ、
やはり美貴は違和感を覚えていた。
甲斐と藤木は同学年で自分は五歳も年上だ。
三人とも面識程度しかないのなら、歳が近い相手の近くに行くものだ。

「これ、お前の分のノコギリ。祭りが終わるまでちゃんと自己管理しろよ」
「わかりました」
既に軍手もはめている藤木に手渡していると、
甲斐はそれとなく一歩下がり、美貴と藤木の後に続く形になっていた。
所々に電信柱もあり、男三人肩を並べて歩くには狭すぎる。
だからこその気遣いなのだろう。
しかし、美貴には配慮というより、
それが他人に対する甲斐の距離の取り方だ。
そうしたいという欲求なのだろうと直観した。

住宅街の路地を抜けて、裏山の竹林へ向かう林道の道すがら。
「なあ。あいつって、大体あんな感じなの?」
美貴は次第に距離を広げる甲斐にも聞こえないように、
声をひそめて藤木に聞いた。あの口の重さは性格なのか、
最初だけの事なのか。
これからずっとあの調子かと不安がる美貴に、藤木が顔を寄せてきた。
「あんなもんじゃないスかね。ずっとクラス違ってたんで、
あんま、しゃべったことないスけど」
「だけど、あのルックスじゃん。学校でも目立つだろ」
「そりゃあ、あいつに告った奴は山程いますよ。
だけど彼女いたとか、そういう話も聞いた事ないですね」
どうやら同級生の間でも、あまり交友はないらしい。
美貴は更に気が重くなりつつも、
登ってきた裏山の林道を反れて薮に分け入り、後方の甲斐を手招いた。
「ほら。竹は節がこんな風に黒っぽいのを選ぶんだ。
白っぽいのは三年未満の若竹だけど、黒っぽいのは頑丈だから」
「わかりました」
手近な竹に手をつきながら説明すると、気のない声で甲斐が答える。
それでも持参したタオルを頭に巻いて軍手をはめ、
竹の物色を始める甲斐の背中は楽しげにさえ見えていた。

「ミキさん、すみません。これなんかどうですか?」
「ああ、いいんじゃねえの? 節も黒いし、まっすぐだし」
程なく甲斐に呼ばれて確認し、切り取る位置を指導する。
「あと、俺。皆、ミキって言うけどさ。本当は下の名前、ヨシキだから」
「そうなんですか?」
「まあ、いいけどな。どっちでも」
顔を上げた甲斐に美貴は、作業の続きを目顔で促し、
根元にノコギリを入れさせる。
同様に藤木にも竹を切り出させ、斜面にそれを寝かせると、
不要な上部と下部をそれぞれ切って落とさせた。
結果、手筒花火に用いる竹筒の長さは一メートル前後になる。

「藤木はノコギリ、慣れてんな」
もたつく甲斐とは対照的に、藤木は軽快に歯を引いている。
「俺、ボーイスカウトやってるんで」
藤木が目を上げ、自慢げに破顔した。
「でも、あれ。ガキん時だけじゃねえの?」
「成人したらローバースカウトっつって、
青年団みたいに年下の指導役になるんです」
面倒見のいい藤木は自分の分をさっさと終わらせてしまい、
代わりに甲斐の竹まで切ろうとした。
だが、美貴はそれを咄嗟に制して怒鳴りつけた。

「駄目だ、他人が触ったら! 演者は自分が奉納する手筒花火は、
最初から最後まで全部自分で作るって説明しただろ! 
これは神事なんだから!」
「……すんません」
奉納する手筒花火の作成は、仲間であっても手を貸す事は許されない。
だから美貴も指導や指示は行うが、美貴が直に竹筒に触れる事も一切ない。
それがしきたりなんだと改めてきつく言い置くと、
風船がしぼむように小さくなって藤木が詫びた。

その後は藤木も甲斐も自分で切り出した竹を黙々と神社に運び入れ、
初日の予定をすべて済ませる。

「お前ら。このあと何か食ってくか?」
美貴は親睦を深める意味でも、しょげた藤木を励ます意味でも、
何か食わせてやろうかと、努めて明るく二人に言った。
だが、
「いッスねー」
と、乗ってきたのは藤木だけ。
甲斐は眉ひとつ動かさず、バイトがあるからちょっとと言い、
あっさりと境内を出ていった。


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