「向かい風を行く」
第一章

向かい風を行く 1

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そういえば、こんな奴いたっけか。
近所の神社の境内で、青年団の団長から甲斐を紹介されながら、
椎名美貴は長身の男を上から下まで視線で撫でた。
ほぼ九頭身のモデル体型。
黒のVネックのカットソーが広い肩幅と胸板の厚みをさりげなく強調する。
ボトムスはストレートのジーンズ。靴は黒のスニーカー。
これといって特徴のないファッションでも、
イケメンが着るとこうなるという見本のような男だった。
美貴は胸の奥で羨望と嫉妬が交差するのを感じていた。
 
美貴が住んでいる地域では、男子は十八になると、自動的に青年団に所属する。
そして、所属したての新入りは、
その年の秋に神社で披露される手筒花火の演者として、
町内にお披露目される習わしだ。
氏神に秋の実りの感謝を捧げる祭礼として奉揚される花火である。
 
その手筒花火は町内の竹藪から切り出してきた竹の中に火薬を詰め、
祭りの当日に点火して消火するまで、
一環して演者自身が務めなければならない。
そのため、今年の春に入団し、この秋、初めて手筒花火の演者となる甲斐の指導役に、
五年先輩の美貴が団長から指名されたのだ。

「こいつの父ちゃん、国会議員の甲斐博義先生だからな。
大事なお坊っちゃまにケガさせんよう、ちゃんと面倒みてやれよ? ミキ」
冬には三人目の子供が生まれる筧が甲斐の肩を抱き寄せながらからかった。
「甲斐です。よろしくお願いします」
甲斐と名乗ったイケメンは素直に頭を下げたきり、
そのまま所在なく黙り込んでいる。

癖のない短めの黒髪に菱形の小さな顔。
目尻は鋭く切れ上がり、すっきり通った形のいい鼻梁。
薄い上唇が子供のようにつんと尖っている。
その沈黙が見る者の心をかき乱しもする、気品高く謎めいた男。

対する美貴はといえば、
男にしては華奢な印象を与える小さな顔に薄茶色のふわふわした髪。
輪郭のはっきりした丸い目や小さな口が、
実年齢より自分を幼く見せていることもわかっている。
それらのちんまりまとまった顔と、
百七十センチ弱の貧相な身体を頭の中で彼の隣に並べた途端、
肩を落としてため息を吐いた。

「これから花火に使う竹、裏山に切り出しに行くけど。時間とか大丈夫?」
「はい。そう聞いてましたから」
美貴が渡したノコギリを受け取って、甲斐は喉にこもったような声でボソリと答える。
五歳も年下で名家の御曹司ともなれば、自然とつるむ連中も違ってくる。
近所にいても知り合う機会がないのは当然といえば当然だ。
だから、入団してきた新顔が全員知人とは限らない。

それでも美貴は元々人見知りする質では全くない。
にも関わらず、美貴はこれまで感じた事がないような緊張と気づまりを、
目の前の少年に対して感じていた。


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