「ホワイトナイト」
第四章

ホワイトナイト37

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「陽介さん……」
 猛は思わず縋るように振り向いた。
 すると、陽介は既に携帯電話を耳にあて、声をひそめて話をしている。そして、気がつくと綾が房子を宥めて椅子に座らせ、優しく声をかけていた。
「今、お茶を入れますからね。お昼ご飯は済まされました? 何かご用意しましょうか?」
「すみません、綾さん。お騒がせして」
「いいのよ。今日は定休日だし。私の事は気にしないで」
 猛は泣き咽んでいる房子に代わって綾に謝罪し、陽介の傍に駆け寄った。綾も穏やかに微笑をたたえ、カフェの厨房に入っていった。             

「陽介さんは何か聞いていませんか? 僕が気づいてなかっただけで、何かうちが蔵元さんの不興を買うようなことをしてたとか……」
 ひとつやふたつのキャンセルだったら仕方がないかもしれないが、これは明らかに蔵元達に結託されたボイコットとしか思えなかった。しかし、陽介は苦い顔で携帯を切り、押さえた声で猛に告げる。
「お前ん所と蔵元がトラブってるって話は聞いてない。今、俺の事務所に連絡したら、蔵元達が説明してきたキャンセル理由も忙しいだの在庫が足りなくなっただの、今更そんな言い訳、通用するわけねえだろうって話ばかりらしい」
「そんな……」
 あまりにショックが大きくて、貧血のように視界が一瞬ぐらりと揺れる。そんな異変を悟ったように、陽介が腕を掴んで支えてくれた。
「……陽介さん」
「心配するな。原因はお前にあるんじゃねえよ。大方の予想もついている」
「え……っ?」
 猛はぎょっと目を剥いて、思わず陽介を仰ぎ見る。けれども、その『大方の予想』に猛が言及するより先に、陽介は手早くコートに袖を通した。      

「お前、今から出られるか?」
「出るって、どこへですか」
「キャンセルしてきた蔵元廻って、直接事情を聞いてくる」
「わかりました。だったら、僕も一緒に行きます」
 猛も脇にコートを抱え、項垂れている房子の肩に手をかけた。
「僕と陽介さんとで、ちゃんと話を聞いてくるから。申し訳ないけど、今日は帰りも遅くなって、山岸さんにも言っておいて」
「……わかりました」
「大丈夫よ、猛君。後の事は私に任せて」
 動揺している従業員を置いていくのは躊躇われたが、綾が猛の不安を察してくれた。房子の前にハーブティーを出してくれた綾に猛は深く一礼すると、陽介に続いて綾の店を後にした。


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