「咲かない桜の桜守」
最終章

咲かない桜の桜守 53

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「……えっ、嘘。何それ。本当に?」
羽太は一気に顔を赤くした。
そういう意味での『気になる』が、ヤリたいに直結するのか。この人は。
理屈より感性や直観で動く松田らしいと言えばそうなるが、
あまりにも直球すぎて恥ずかしい。

もちろん気持ちを伴っての話だという事は、わかっている。
この場合、好きだった人にそう思ってもらえていたのだから、
普通に喜べばいいのだろうか。
即物的すぎて情緒はないが、そのぐらい『好きだった』という、
意思表示の一種だと前向きに受け止めよう。
羽太は火照った顔を掌で扇ぎ、視線をうろうろと泳がせた。

「じゃあ、僕は、これからも松田さんがしたくなった時のために
写真とか動画とか送らないといけないんですね?」
「そうだ。悪いか。要るんだよ」
「そういう事。あんまり言わない方がいいですよ。送る方の身にも
なって下さい」
羽太はうつむき加減に目を逸らしながら抗議した。
まったく悪びれる様子もないこの人は、
本当にロマンチストなのか合理主義なのかすらわからない。
結局は、よくわからない人だという結論に至ってしまう自分がいる。
羽太もまた、付いだ根を踏まないように注意しながらロープの外に出て、
待っている松田の側まで黙々と近づいた。
隣まで行き、まじまじと彼を見る。
そんな自分を松田は、しれっとした顔つきで見つめ返してきただけだ。

確かに今は松田の事は、ほとんど知らない。わからない。
それでも二人で平家桜の根を付いだ、
あの時の融け合ってしまった感覚は一生忘れないだろう。
あの瞬間、自分達はひとつの身体を二人で共有したのだから。

「それからこれは、もっと村の人とも話し合ってからになるけどな」
不意に伸びてきた長い腕が肩を掴み、その胸の中に
再び羽太を閉じ込める。
目の前に恋人がいるのだから、身体のどこかを触れ合わせたい。
体温や肌触り、匂いも息遣いも感じたい。
松田もそう思ってくれているのなら嬉しいと、
羽太は穏やかに目を閉じる。

「平家桜は俺が寝かせる。だから、他の業者に頼むなよ」
松田は自身の胸に顔をうずめる羽太の髪を撫でながら、
あらたまった声で告げた。 
「……えっ?」         
寝かせるという言葉の意味がわからずに、
羽太は反射的に目を上げた。

「ああ、そうか。悪い。木材業者は枝を切るだけの剪定じゃなくて、
幹にノコギリ入れる時だけは『木を寝かす』って言っている。
木は樹木としての生命を終えても、木材として別の形に生まれ変わるものだから。
倒すんじゃなくて、一度眠りにつかせるだけだって……」
「木を寝かす……」
羽太は、その言葉を噛んで含んで転がすようにくり返し、
ゆるゆる両目を見開いた。



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