「咲かない桜の桜守」
第六章

咲かない桜の桜守 38

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「桜祭りが終わったら、できるだけ早く謝罪したかった。
これからの処置の方向性も早く決めないと手遅れになっるからな。
今日は小泉さんに、こういう席を設けて貰えて助かった」
ムキになる羽太を落ち着かせようとするように、軽く頭をはたかれた。
だから、今日に限って能紺のスーツに白のシャツ、無地のネクタイという、
あらたまったビジネス仕様の服装で来たのかと、
羽太は、やっと気がついた。

そっと見上げた松田の目は、胸のつかえが取れたように澄んでいる。
あんなに理不尽に責められても、きっと本心から良かったと言っている。

「助かったなんて、そんな事……」
大人げなかった自分達こそなさけなくなり、羽太は声を消え入らせた。
それ以上、気のきいた言葉も浮かばない。
自分が何かとてつもなく大きなものに包みこまれ、許されている事を
松田の掌の重さで感じていた。

平家桜も手足をもがれるような支幹の切除の通告を
伝えるためにやってきた自分と松田を迎えるように笑っている。
その花を開かせて、「それでいいんだ」と言いながら、肩を抱いてくれている。
そんな実感に支えられ、羽太は堪らず松田に背を向けた。
そして滲んだ涙を素早く拭い、あらためて振り向いた。

「だけど、三浦が俺の意見を推してくれて嬉しかった。……ありがとう」
「……えっ?」
「さすがに支幹の切除は拒否されると思っていた。だから、どうしても三浦には
言えなかった」           
「松田さん……」
「本当は三浦に話をつけてから、小泉さんや皆に提案するのが筋だとわかってた。
そうじゃないと、ダメだろって自分でも。……だけど」
松田は羽太の頭に乗せた手を、ぎこちなく引き、握りしめた。
視線をあちこちに揺らめかせ、言いかけた言葉を濁らせる。

「俺のやり方は感覚的で理屈じゃないからな。風当たりだって強いのに、
ここまで信じて任せてくれた持ち主はいない。……感謝してる」 
「そんな……」
熱のこもった眼差しに瞳の奥を射抜かれて、
心臓をぎゅっと掴まれたようになる。鼓動がどんどん速くなり、
喉が詰まったようになる。
自分でも顔だけ火照ったように熱くなるのを感じていた。

「……って言うか、それよりあれだ。俺が、桜と持ち主はリンクしてるって言った話」
松田もなぜか落ち着きがなくなった。
唐突に話を変えたと思ったら、必死の形相で言い足した。
「あれは、持ち主のコンディションに桜がリンクするって事だからな? 
持ち主の体調が桜にリンクするって事じゃない。
だからもし、万が一平家桜が枯れるような事があったとしても、
三浦がどうにかなったりしないから。絶対にそれはないからな。
変に気、回したりするなよ?」
と、最後は羽太の両肩を鷲掴みにして顔を寄せ、至極真面目に念押しした。
羽太は束の間あっけにとられて口をポカンと開いていた。
けれど、程なく松田の危惧が腑に落ちるなり、思わず小さく吹き出した。

「嫌だな、松田さん。そんなこと気にしてたんですか?」
それは今の今まで、すっかり忘れてしまっていたような些細な会話の一端だ。
それなのに、そんな事まで気に病んでいたなんてと、驚いた。
「何だよ。俺の親父が病気して、そのあと持ち直した話なんかして。
無神経だったって、結構これでも悩んだんだぞ? 
お前はご両親を失くしてるのに、無神経だったって」          
松田は子供がすねたみたいに横を向いた。
それでも羽太は抑えても抑えても、ニコニコせずにはいられない。
結局なんだかんだで人がいい。
そんな松田が苦しくなるほど愛おしく、可愛いとさえ思っていた。
だから息がこんなにも苦しいのか。甘く胸が疼くのか。
羽太は切なく双眸を細めながら、自分よりずっと大人で懐深い男を
見つめていた。見つめる事しかできない事は、わかっていた。

「……じゃあ、そろそろ帰るか。俺達も」     
いじけた顔をあらためて、松田が羽太の手に触れてきた。
羽太は一瞬で凍りついたように四肢を強ばらせ、触れられた左手に
目を移す。心臓がある方の左手だ。
松田は羽太の指を掬うように掌に収め、親指でそっと撫でて言う。
「指もこんなに冷えてるし」


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