「咲かない桜の桜守」
第六章

咲かない桜の桜守 36

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「疲れた……」
 
想定外の修羅場だった事もあり、羽太は燃え尽きたようにパイプ椅子に腰をかけた。
今更ながら汗がどっと吹き出して、体が小刻みに震え出す。
思わず大きく息を吸い、吐きながら羽太は項垂れた。
すると、肩にそっと手を置かれ、反射的に顔を向ける。

「松田さん……」
「何にも言わずに急にこんな話をしてすまなかった。だけど、三浦が助け舟、
出してくれるなんて思わなかった」  
艶めいた目で撫でるように見つめられ、胸がドキリと音をたてる。 
「そんな……」   
後ろめたさがこみあげて、羽太は視線を泳がせた。
そんなに大きな決断を、どうして言わずにいたのかと、
最初は責めていたからだ。今になって考えてみれば、松田には元々そういう所が
あったのに。周囲にほとんど相談はせず、自己完結して行動する。
それが彼の性格で、悪意があったわけじゃない。
          
それよりも村の問題に松田を巻き込み、謂れのない非難の的にしてしまった。
自分の方こそ詫びなければと気持ちの上では焦っているのに、体に力が入らない。
松田の顔が近すぎて、思考が停止してしまう。
鼓動を妙に高ぶらせたまま惚けていると、松田が更に双眸を細める。 
「とりあえず、今日の経緯を平家桜に報告に行こう。お前もちょっとつきあえよ」  
「……えっ?」
羽太は声を上擦らせた。
それでも戸惑う羽太を尻目に松田は手早く手荷物をまとめ、
会議室の出入り口に向かっている。 

「で、……でも、今年はライトアップもされてませんし。行ってもたぶん真っ暗ですよ?」
「それなら、逆にちょうどいい。今日は月も明るいし、夜桜見物がゆっくりできる」
松田は肩越しに振り向いた。
ネクタイのノットを緩めながらうそぶいて、目顔で早くと急かしている。
だが、松田も日が暮れる前に平家桜を見ているはずだ。
夜桜見物と言えるほど、花をつけていない事も知っている。
それなら言葉通り、支幹を切り落とす話になったと、
報告に行くつもりだけなのか。
羽太は首を傾げたが、とりあえず松田の後を追いかけた。


「……やっぱり誰もいませんねえ」
事務所を出た後、夜露に湿る芝生と土の感触を靴底に感じつつ、
前を歩く松田に言った。
公園内は外灯も消されてしまい、やはり自分と松田以外に見物客はいなかった。
去年までの昼夜を問わずの賑わいが、今となっては一夜の酔夢のようだった。 


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